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ウチの学校は校舎から校門までかなり距離がある。さて、どれくらいあるかといえば、

→田中が青峰に告ったらしい
→なんか一緒に帰ってる
→あれ?付き合った?

ぐらいの段階を踏んで誤解されるくらいには、長い。

「でさー、私、自由が丘に住んでんだけど……って、置いてかないでよ!」
田中の叫びに、遠巻きに見ている不特定多数の野郎どもから粘っこい視線が突き刺さった。

全くもって気に障る。
俺としてはむしろ頼んででも押し付けたいぐらいだっつーのに、もう一体何なんだ。

「うっせーな。勝手にしろとは言ったけどよ、誰も待ってやるとは言ってねーよ」
「ひど〜い。でもいいもん、頑張ってついてくから」

通り過ぎていく人間から、何あれ酷いという声が口々に聞こえてくる。
藁にもすがりたい、ってこういう状況なんだろうな、と柄にもなく思った。

だが、通りかかった知り合いの反応はやっぱり絶望的だった。
「どんまい☆」と口パクするだけとか、他人のフリを貫くとか、ここら辺はまだいい。
見下したように笑うとか、挙句の果てには俺の存在すら気付かないなんて荒技にはキレる気も失せた。



数分後、やっと学校の敷地内から抜けられてほっとした途端、ふと強烈な既視感に襲われた。

「わ!? 青峰君、急に止まんないで!」
田中の騒がしい声が、急に遠く聞こえる。

1週間。
1週間もの間、ずっと思考のほとんどを占めていた女が、校門の陰で立っていた。

「あ、ごめん、出直した方がいい?」
真っ赤なマフラーに顔を埋めながら、いつもとは打って変わってすまなさそうに渡は口を開いた。

何で、という一言が咄嗟に出てこない。

「……あんたがもしかして青峰君の元カノ?」
田中は穴が開くほど渡を凝視し、何か言いたそうに俺を見上げる。

「パードゥン?」
「だからッ、」
ギャラリーからどっと笑いがおこり、修羅場だ何だかんだとはやしたてる。

色んなことに驚きすぎて、ちょっと前まで抜け出せなくなっていた思考が、一瞬吹っ飛んだ。


「渡、走るぞ」

「え……は!?」
無造作に下ろされていた腕をつかみ、ぐいっと引っ張った。周りからえっ、と驚きの声が上がる。
渡が体勢を戻したのを確認し、理解が追い付いていない連中を後目に駆け出した。

もう後は野となれ山となれ、だ。


「ちょっと、青?」
駅が見えてきた頃、渡は耐えかねたように声を発した。マラソン程度の速さで走っているが、渡はもう息が上がっている。

「駅まで頼む」
「タクっ、シーじゃない……つかもーギブ」
「あとちょっとで撒けっから」

半ギレ状態の渡の手は、この前と同じで氷のように冷たい。こっちの体温まで下がりそうだ。

あれ、この前って何だ。

自問自答して、あることに気付き、呼吸が止まるかと思った。


もしかして、渡と手つないじゃってる?



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