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つまんねぇ意地なんて張らねぇで、さっさと謝っとくんだった。

渡から連絡が来なくなって、もう1週間が経った。
校長の長い話も済み、終業式も終わりに近付いている。

学校帰りの1、2時間を図書館で勉強するというのが基本だったが、冬休みはお互いに自由時間が変わってくる。つまり今日を逃すと2週間は会えない、というか謝れるチャンスはこれで最後だろう。

ぐずぐずと1週間も引き延ばしてしまった俺を殴りたかった。


頭は、あのあと家に帰ってすぐに冷えていた。渡は何も間違ったことは言ってないし、何より別れ際の泣き顔がこたえた。
本当に泣いていたかどうかは分からないが、渡があそこまで傷付いたような表情を見せたのは初めてだった。

だから、謝らなければ。

そう思って渡の連絡先を開いてみるものの、携帯を閉じたり開いたりするだけで終わってしまう。
どうやって謝ればいいのか分からないのだ。
渡はどこまで怒っているのだろうとか、無視されたらどうしようとか、色々と考えてしまって、結局何もできなかった。

「3年生は退場してください」
アナウンスが流れ、一斉にパイプ椅子の軋む音が響く。
ああ、ついに終業式も終わってしまった。



携帯を握りしめつつ、昇降口を出ようとすると、思いがけず声をかけられた。
それも、無視すると手酷い目に遭う類の。

「あの、青峰君、ちょっと……いいかな?」
人通りの多い下駄箱前で待ち構えているあたり打算的だ。諦めて足を止めると、プチ清楚風のその女はほっとしたように笑った。

「ええっと、あの……私、」
「バトン部の田中だろ? 俺に何の用だよ」
胸がでかいって評判で知ってた、とは言わない。

「……好きです。青峰君、付き合ってください」

下駄箱の陰に3人、それと、その他多数の通行人Aが俺をじろじろと見ていく。だが運の良いことに明日から2週間は顔を合わせることはない。
クリスマスだの正月だのやってれば他人の恋愛話なんて忘れていることだろう。

「あー、悪いけど興味ねぇから」
今までの俺だったら付き合ってただろうな、とは思う。でもいくら片思いですれ違い中…とは認めたくないが、それでも渡以外の女はどうでもいい。

背を向けようとすると、田中は縋るように服の裾を掴んだ。

「……じゃあ今日から、少しでも私に興味持ってよ」
「は?」

伸びてきた腕を振り払うと、へこむどころか余計にやる気にさせてしまったようだった。

「青峰君が、他校のコと別れたばっかなのは知ってるけど、」
「…なんだその情報」
「え、違うの? 今週ずっと落ち込んでるから、そんな噂を聞いたよ」

俺、付き合ってすらいねぇけどな、と心の中で嘲笑してみる。しかし誰だ、そんな出鱈目言った奴は。

田中は俺の沈黙を肯定ととったのか、どんどん強気に出てきた。

「でも、どっちにしろフリーなんでしょ? 今すぐそういう対象として見なくてもいいから、一緒に帰るくらい、ダメ?」

彼女に振られたばっかの男だったら落とすのもチョロいってか。下心が見え見えだ。女ってこんなもんだったっけか、と少し引いた。

だが、このタイプだといくら拒否っても、走って逃げだしでもしない限りずっとつきまとってくるだろう。
めんどくせぇな、相手すんの。



「……勝手にしろよ」
ため息をつきながら歩き出すと、「歩くの早いよ!」と声が聞こえてきたが、シカトした。



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