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「…なに、早い話が、俺凄すぎて対等な好敵手がいなくなってつまんなくて辞めた、と?」
渡は抹茶白玉黒蜜パフェを口に運びながら、俺の2年間をたったの30字以内にまとめた。

「……すんげえ早く言ったな」
「国語の記述、こう見えて得意ですから。反論があるなら聞くけど」

俺の人生は物語文でも論説文でもねぇよ、と言い返したかったが、確かに渡の言っていることは核心をついている。

「ま、でも、バスケが楽しかった時期もあったんでしょ?」
「中2の夏休みまではな」

あの頃はチームメイトがいて、敵がいて、相棒がいた。どうしてここまで変わってしまったのか、俺は今だに分からない。

「……天才って、99%の努力と1%の閃きなんだって。アインシュタインだかの名言で聞いたことあるんだけどさ、」
渡は無表情にパフェを食べるのを止めた。

「つまり凡人はその1%が欠けてる訳。いくら努力してもさ。でも、青は聞いてる限りだとその1%を手に入れた訳じゃん?」
「そんで?」

「せっかく才能あるのに、何でそんなに視野が狭いのかなと思って」
渡はこんなときに限って冗談めかすことなく、真顔で続ける。

「……どういう意味だよ」
「自分に勝てる人間がどこにもいないなんて、本気で思ってるの? そんなに負けてみたいなら、プロの選手とか、アメリカにでも行って喧嘩吹っかけてみれば? たかが中坊だよ、青」

それは確かに正論かもしれない。だが、無性にイラついた。
お前に、バスケを知らないお前に何が分かるんだと。たかが机上の空論じゃねぇかと。

「知ったようなこと言うんじゃねぇよ。そりゃ大企業の令嬢ならアメリカだって何だってほいほい行けるだろーけどな、俺みたいな庶民じゃ到底無理な話なんだよ」
瞬間、渡の表情が明らかに強張った。

「……別に、それとこれとは関係ないでしょ」
「ちげーよ。所詮、俺とお前じゃ物の見方から全然違うってことなんじゃねぇの?」

論理的な正論が返ってくるかと思えば、ガタンと音がして、渡は急に立ち上がった。

「……帰る」

僅かに見えたその顔は今にも泣きそうで、でも引き止めようとした時には、渡はもう店から出ていっていた。


半分しか減ってないパフェを見ながら、ぼんやりと財布の残額について考えることしかできない自分が、心底嫌だった。



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