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なんとなくそのまま動けないでいると、渡は何事も無かったかのようにノートを開いた。
さすが渡、通常運転だ、と半ば感心していると、渡はページをめくる手を止めた。
「青、勉強しないの?」
「……今日はいいわ。宿題ねーし」
「そっか」
渡は素っ気ない返事を返すと、再び教科書に目を戻した。
カリカリとシャーペンを走らせる音だけが聞こえている。図書館で勉強しているから当然だが、珍しい。
二人きりが当たり前だったから、形はどうあれ第三者を挟んでみると、一対一で向かい合うのが無性に気まずくなってくる。
渡も、そう思っているのだろうか。
「はあぁぁーーもういいや。集中できん」
渡はおもむろに伸びをして、シャーペンを放り投げた。
「いいのかよ、受験生さんよお」
「だってさ、青って何だかんだ言って自分のこと教えてくれないじゃん。なんか引っかかって、勉強なんてできないよもう」
気になる、と渡に目を輝かされて言葉につまる。
「……じゃあ何が知りたいんだよ」
「ん〜、何で部活出ないの、とか?」
最初からクライマックス。さて、どう答えようか。
「あー、一言で言うならつまんないから、だな」
「何で? 素人目で見ても上手いのに」
「色々あんだよ」
重くなってきた話を見て取ったらしく、気付けば周りの人間の視線が集まっている。渡もそれを感じたのか、勉強道具を鞄にしまい、椅子から立ち上がった。
「場所、変えよっか」
駅前のサイゼリーアは程よい喧噪に包まれていた。
案内された席に座り、注文を済ませる。去っていく店員を見送りながら渡は口を開いた。
「人目をはばからなくてもオッケーな場所に来たし、さっきの、続けて?」
「なんかお前の発言が危ねぇんだけど」
「大丈夫だ問題ない」
渡にごまかしは効かないらしい。腹を括って、順を追って言葉にしていくことにした。
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