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散々だったテスト返却日から1週間。
さつき達の反応もようやく収まったころ、図書館ではまたもとんでもない事態が発生していた。

「……渡」
「なぁに?」
古びた本を閉じながら、渡はゆっくり俺を見上げる。

「なんでテツがいんだよ!?」
「渡さん、青峰君もいるなんて聞いてません」
俺とテツの間に流れる微妙な雰囲気は、渡の眼中には全く入っていないらしい。

「は? だって言ってないもん」
意味が分からないよ、と渡は首を傾げた。



少し時間は遡る。
放課後、桐皇の監督と最終的な話し合いを済ませ、それで45分ぐらい遅れて図書館に着いたのが6時前。

1番はじの机で、渡はペンを置いたまま本を読んでいた。

「へぇー、お前も本なんて読むんだな。初めて見たわ」
「開口一番失礼な。わたしだって純文学ぐらい読むよ。ほら、見てこれ」
渡は口を尖らせながら、読んでいた本の表紙を広げた。

「ノルウェイの森? 聞いたことぐらいはあるけどよ、何でそんなん読んでんだお前」
「ほくろクンにすすめられたの〜」

ほくろクン……渡、誰にそのあだ名をつけてたっけな。
記憶を辿りながら、何の気なしに渡の隣に視線をやると、水色の頭が目に入った。

最近全く見かけない、でも見慣れたそのシルエットはくるりと俺の方に顔を向ける。

「え……青峰、君!?」


そして今、渡の差し向かいの席で、俺は必死に気まずさに耐えていた。

「えーっと、何この、元カレに会っちゃった☆的な雰囲気」
「渡さん、その手の冗談には暴力で対応しますよ」
「すいませんでした」

テツは真顔で言い放つと、俺に視線を移した。
「……久しぶりですね、青峰君」
「……ああ」

何で辞めたんだ、なんて野暮なことは言えないし、言わない。
けれどーおそらく意識的に自らの存在を消したのだろうー退部してから一度も会わなかったこともあり、気まずいどころの騒ぎじゃなかった。

「あり? ほくろクンってバスケ辞めたの?」
そんなギクシャクとした空気を、渡は躊躇いなく打ち破った。

「はい」
「ふーん。じゃあほくろクンも受験するんだ? 志望校とか決まってる?」
まあ、さすがのテツもあっさりスルーされたことには面食らっているようだが。

「あ、はい。でも、渡さんは中高一貫校でしたよね? も、って言いましたけど」
「うん、ちょっと紆余曲折あってね。付属高校には進まないで、青と一緒のガッコ行くことにしたんだ〜。でも、肝心の青が」

一度言葉を切り、渡は咎めるように俺を見る。
「んな借金取りみたい顔しなくても、推薦ならちゃんと取ってきたぜ」
「おおっ! よし、偉い偉い……あと酷い」

さして落ち込んで無いくせに、渡はわざとおどけてみせる。それに思わず笑うと、テツの目が少し見開かれた。


「もしかして、お二人は付き合ってるんですか?」

「は!?」
もし今、茶でも飲んでいたら絶対吹き出している。
「違うよ? いつも勉強には付き合ってもらってるけど」
「そうなんですか。青峰君のそんな表情を見るのは初めてだったので」

けれど渡は、俺の心境を知ってか知らずか「えー照れる〜」なんて冗談めかして言いながら、俺の方を見ない。

テツの言葉に渡がどう思ったか、俺には分からなかった。


テツは、ここの図書館には本を探しにたまたま来ただけらしい。
そんなことを言い置いて、俺の元相棒は「それでは、お邪魔しました」と静かに席を立った。



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