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「は!? 渡、」
「いいから黙って目を閉じてってば。動かないでね」

木製のボロい椅子が、ギシリと軋む。渡が俺の方に身を乗り出した。


何だこの展開。
え、まさかのキスかキスなのか。罰ゲームどころかどんな一等賞だ。

いや待て。ちょっと落ち着くんだ、俺。相手はあの渡だぞ、あの。そんなムフフな展開が繰り広げられるなんてある訳が……期待しないで目を閉じて待ってみるか。


だが、聞こえてきたのはキュポッ、というキャップを外す音で。

まあ、そうだよな。そうだよな、俺が馬鹿だった。
瞼の圧迫感に耐えながら、俺は上がりきったテンションを底辺まで下げた。

「終わったよ」
至るところからくすくすと忍び笑いが聞こえてくる。
息を吐き出しながら目を開けると、案の定渡は瞬時に吹きだした。

「ひゃははははは!!…はぁ、やば、めっちゃウケる…ぶふっ、あっはははは!!」

「……」
この罰ゲームを言い出したのは俺だ。キレるな。耐えろ。

「古典的なネタだけどいいね、まぶたに目描くのって」
「明日、俺学校あるんだけど」
「大丈夫、大丈夫。水性ペンで書いたからちゃんと顔洗えば落ちるよ。かっこ多分だけどかっことじ」
「ふざけんな」

すると、渡は「あ、」と手を打った。乗り出した体を引っ込めると、何やら自分の鞄を漁りだし、あろうことか携帯を取り出した。

嫌な汗が一筋、背中をつたう。

「……渡、やめろよ? 知り合いに写メるとかマジでやめろよ!?」
「パチパチパチ。大せいか〜い。何で分かったの?」
「顔に書いてあるわボケ!!」

渡はさつきのアドレスを持っている。つまりは撮られたら最後、画像が学校の面子に直行便だ。

必死で顔を隠そうとしたが、渡はしつこく迫ってくる。俺は最後の手段、机に突っ伏すことにした。


これで渡はもう何もできないだろう。渡のことだからさっさと諦めると思いきや、意外に引き下がる様子はない。

「ん〜、じゃあ、」

ふいに渡の動きが止まり、静かになった。
次は一体何なんだ、と身構え、あらん限りの攻撃パターンを考えてみる。微妙な溜めというのは案外落ち着かない。


次の瞬間、耳に生温かい風が送り込まれた。

「どっわぁああ!!?」

息を吹き込まれた右耳を抑え、思わず跳ね起きる。びっくりしすぎて心臓が飛び出すかと思った。

てめぇ何すんだ、と言うはずだった言葉は乾いたシャッター音によって打ち消される。真顔の渡と目が合い、はっとしたときにはもう遅かった。

「そ・う・し・ん、っと」
渡の携帯はピロリン、と無情にもメールの送信完了を告げた。




次の日、さつきを始めとするバスケ部の奴らに散々からかわれたのは言うまでもない。



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