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きれいなCAのお姉さんがわたしのキャリーバックを頭上の収納に乱暴に突っ込んだ。
通路を阻んで大騒ぎしていた、わたしとその青髪の少年−−ちょっと長いから青野郎としよう−−に痺れをきたしたのだろう。
すみませんと言って、青野郎の足をまたいでわたしは窓側席に座る。

早足で去っていくCAの後ろ姿を見ながら、犯罪者になっちゃったなあ、とぼんやりと思った。


「あーあー、どうしたものかなあ……」
「どうしたもこうしたもねえだろ。他に言うことはねーのかよ泥棒」
青野郎は吐き捨てるように答えた。

「だから、魔が差したんですすみませんって言ってるじゃん」

わたしは、つい5分前、青野郎の財布をスろうとして失敗した、間抜けな中学生だった。
魔がさした、としか言いようがない。
わたしは自分の席を探していて、口を開けて爆睡する青野郎を見つけて、その胸ポケットに財布がのぞいていたから、手を伸ばした。
それだけ。

「なんだよお前……俺が通報したら即補導とかだぞ。なんで余裕ぶっこいてんだよ」
「え、何? 見逃してくれるの、ありがとう」
「んな訳ねーだろ。ま、体で払うっつーなら考えてやらねぇこともないけどな」
「こんなカラダで良ければ喜んで」

警察沙汰になるくらいなら、と思っていると、青野郎はリアルにフリーズしていた。
そんな反応をされるとこっちまで焦る。

「ごめん、冗談。下ネタは愛してるけど」
「いや今のは本気だっただろ……え、愛してるって」
「おっと口が滑った」
「……お前、いくつだよ」
「155センチ」
「誰も身長なんて聞いてねぇ」
「乙女の黙秘権を行使します」
「体重も聞いてねぇから。年だよ年! 何回ボケれば気が済むんだテメェ」
「ああ、年。今年で15歳だけど」
「なんで今わかりましたって顔してんだよ。絶対わざとだろ」
「はははっ、ばれたぁ?」

青野郎はだんだん疲れてきたらしく、深くため息をついた。

「じゃあ、俺とタメか」
「え、ため息つくとこそこ!?ひどいわ、花の15歳よ。乙女真っ盛りよっ」
「お前が乙女だったら、世の中の女全員令嬢だろうよ」

何の気なしにに放たれたであろうその言葉に、わたしは一瞬固まって、失笑した。

都内の一等地に馬鹿でかい家を持って、家族は4人なのにお抱え使用人は10人以上。別荘も島も世界各地に何個もある。
日本屈指の大企業、渡カンパニーの娘であるわたしのことを、令嬢と呼ばずして何と呼ぶ?


「お、何か沈んだ」
「ガラスのハートなんで」
「冗談は休み休み言えよ」

やっと離陸したのか、かくんと身体が浮き上がる。
窓の外を見ると、はっとするような青空が広がっていた。




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