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図書館の最寄り駅の改札を出たところで、見慣れた紺のセーラーが目に入った。
同じ時間なんて、珍しい。清桜の方が図書館に近いため渡はいつも俺より先に着いていた。
まあ何にせよ、渡に話しかけない手はない。

あまり距離が離れてなかったのもあり、小走りになるまでもなくすぐに追いついた。

「よお」
「へぎゃ!? 青!?」
背後から話しかけると、渡は足を止め、心底驚いたように目を瞬かせた。

「……蛙がひしゃげたみたいな声出すなよ。お前女だろ」
「ひどいよケロロ君……あーびっくりした」
「蛙つながり!? つか、今日は遅かったんだな」

「そうそう、ちょっと本屋寄っててさ」
歩きながら渡が取り出したのは、桐皇の過去問集だった。

「偏差値63だって。結構お手頃だよね〜」
「いやいやいや、ちょっと待てお前。俺はまだスポーツ推薦決定じゃねぇ」
「えー、わたしここにしちゃおうかと思ってるんだけど。もう期末だし、そろそろ決めないと」

ああ、そうか。前提から違うのか。渡は、俺がスカウトされたから桐皇に行く訳じゃない。


「青。嫌だったらいいけどさ、ちゃんと推薦取ってきてよ」
「あ?」
「凄まないで恐いから。だから、どうせなら一緒に行こうよ」
嫌? と言いながら、渡は俺を見上げた。

俺は、わざと眉を寄せ、そっぽを向くことしか出来ない。

「……考えとく」
「ん、良かった。ここで拒否られたら、わたしのガラスのハートが粉々になっちゃう」
「お前の心臓は鋼鉄製だろ」

嫌だなんて、言える訳ねぇだろ。好きな女に一緒の学校に行きたいなんて言われて、拒否れる訳もない。
これは、進展したととってもいいのだろうか。


「にしてもさー青と歩くとすっごい気分良いねぇ」
「あ? どーいう意味だよ」
「だって、前歩く人がどんどん避けてくんだもん。ほら見て、このモーセの十戒みたいな割れ方。どんだけコワモテなんだか」

渡がドヤ顔で指し示す通り、前にも後ろにも人はいない。不機嫌に街を歩いていればよくあることだが、このタイミングで、しかも楽しそうに言われるとは。

舞い上がった途端にこれかよ……。


「……お前の神経、毛皮でコーティングされてんじゃねぇの」

何だかアホらしくなって、歩くスピードを少しだけ早めた。



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