38


予鈴前の教室はやけに静かだった。何でだ、と見回してみると、大多数が机に向かい、シャーペンを走らせている。

そういえば、期末1週間前だった。


「おはよ、大ちゃん。今日は早いね」
席に着くと、前に座るさつきが振り返った。
「うす。珍しく目ぇ覚めた」
「そっかー。しかもなんかご機嫌?」

さつきはにこにこと笑いながら、俺の顔をじっと見る。
「そうかもな」
否定はしない。その原因が渡の一言だとは絶対に言わないが。


一緒にいて楽しいなんて言われたら、脈ありと期待しないはずがない。友達として、という可能性もあるが、泣けてくるから考えるのをやめた。
ちょっとくらい希望を持たせてくれ。

「ふふっ。大ちゃん最近変わったよね。一時期どうなるかと思ったけど、落ち着いてくれて良かった」

どっちかっつーと浮ついているような気がしないでもないが、黙っていると、さつきはずいと身を乗り出してきた。

「でさ、昨日、ゆずりはちゃん来たんでしょ? ウチの校門の前で、清桜のお嬢様が高校生と立ってたって噂で聞いたんだけど」
「ああ……俺をスカウトしに来たガッコの主将だな」

「そうなの!? ていうか、おとといもゆずりはちゃん来てたんだって? 何で教えてくれなかったのー!?」
「うっせーな。んな暇無かったんだよ」

相変わらずギャーギャーうるさい奴。このテンションをどうやって維持しているのか、渡を見ていると謎に思えてくる。
渡は意外と感情の起伏が小さいし、基本的にドライだ。

「でもさ、わざわざ大ちゃんを迎えに来てくれたんだよね?」
さつきは笑って、わざわざ、の部分を強調した。

「……それが?」
「またまたーホントはすっごく嬉しいくせに。大ちゃんって結構分かりやすいよね」
「さつき、テメッ、」
「大丈夫、みんなには言ってないから。で、進展はあるの?」

……何もねぇ。


「あっちゃー、酷なこと聞いてごめんね」
「まだ何も言ってねぇよ!」
「もう認めたようなもんじゃない。由夏ちゃんとか川嶋さんの時の強引さはどこに行ったの」
「何で知ってんだお前!?」
初めてさつきが怖くなった。

「まあ、それは良いとして」
「良くねぇ!」

「慎重になるのはいいけど、ぼやぼやしてると誰かにさらわれちゃうよ? ゆずりはちゃん、高校生になったら今以上に可愛くなるから、絶対」
さつきの言う通り、背も胸もまだ発展途上だ。チャラそうには見えるが、顔も少しだけ幼さが残る。

……なんて真剣に考えてしまった俺は一体。


「さつきちゃん、わかんない問題があるんだけどー」
ふいに聞こえてきた第三者の声。さつきの隣の女子が、お願いっ、と手を合わせ、教科書を差し出した。

「あ、いいよー。……じゃ、大ちゃん。せいぜい頑張ってね」

せいぜいって何だよ、と思いながらも、言い返すことは出来なかった。



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