35

「おっそいじゃん、青〜」

渡が俺に手を振った。
わざわざ来てくれたのは嬉しい。気に障る取り巻き共もいない。そこまではいいのだが、

「なんでアンタがいるんだよ……今吉サン」

渡の隣に、さっき別れたばかりの眼鏡の男、桐皇の主将が立っていた。


「お、名前覚えてくれたん? 光栄やわ」
「…………」
「まーまー、そう怒らんといてや。かわええコが立っとるなぁ思ったら、お前さんを待っとる言うから」
要するにナンパしたんじゃねぇか。

「どうもっす。この人、青の先輩なんだってね?」
「ちげーよ。今日初めて会ったし」

渡は軽く首を傾げながら俺を見上げた。無造作に肩で切りそろえられた黒髪がぱさりと落ち、首元があらわになる。咄嗟に今吉に視線を移した。


「え、でも桐皇に行ったら先輩でしょ?」

今吉は渡の言葉に口角を上げた。瞬時に分かった、外堀(つまり渡)から埋めていく魂胆だ。

「さっきも言った通り、まだ予定やけどな。ワシらは大歓迎やから、後はこいつ次第や」
「ふーん。そうなんすか」
渡は相変わらず気の抜けた返事を返した。

「でも、まあこんな彼女おったら練習なんて出とうなくなるわなー」
「……それとこいつは関係ねーよ。しかも彼女じゃねー」
俺を見て、今吉は更に笑みを深めた。


「なんや、清桜のお嬢様やのに勿体無いなあ。ワシなら即付き合うで。あ、せっかくやしワシと連絡先交換しとかへん?」
「あはは、ご冗談を。どーせモテるんでしょ? 5人くらい余裕で同時進行してそうじゃないですかー」
「つれないなあ。お兄さんには優しくするもんやで?」
「そんなこと言ったってごまかされませんよ〜ミスター悪代官」
「舐めとんのかワレ」

なんというか、凄い。
俺がついていけないでいると、不意に肩を小突かれた。

「青、ぼけっとしてないで急ご。今日は練習出てないから疲れてないでしょ?」
「……お、おう」

渡本人にとっては何気ない動作だったのだろうが、びっくりした。心臓が飛び出す寸前だ。

「ほー? いつも2人でどっか行っとるんか?」
「行ってるっていうか、図書館で勉強してるんですよ。わたし、1人で勉強できないんで、青に付き合ってもらってます」
へー、とか今更思ってみたり。

「……いつものこいつからすると、大人しく机に向かってる図なんて全然想像できへんわ」
「アンタ、初対面だったよな!?」

「まー、代わりと言っちゃなんですけど、宿題とか教えてあげたりしてますね」
「へぇ、チャラそうな見かけの割には案外真面目なんやな」
「なんか色々と引っかかるんすけど。まあ、高校受験する予定なんで勉強はそれなりにしとかないと」

今吉はよほど意外だったのか、張り付いたような笑みからやや真顔になった。

「清桜って、確か内部進学率10割だったような気がするんやけど」
「打ち上げで酒飲んだのがバレて、付属高校に上がれなくなったんだとよ」
この件については散々愚痴られたから覚えている。

「でも、それだけだとせいぜい停学処分やと思うで?」
「いい加減非行履歴がヤバすぎたのと、校長に喧嘩売っちゃったからですかね、多分」

「普通ならそこで必死に頭を下げるだろうに、オモロいなぁ、渡チャン」

頼むから、どこか納得したように俺と渡を交互に見るのはやめて欲しい。


「もう11月やけど、志望校とかって決まっとるん?」
「まだ全く」
今吉はまた、にいっと笑った。

「じゃあ渡チャンも、うちに来てみーひん?」

青峰と、一緒に。


今吉は確かにそう言った。



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