33

「なあ、渡。結局あの後どうなったんだ?」

これ以上黙っていると、変なことを口走ってしまいそうだった。
「ん、あの後? ……ああ、俊一郎さんのこと。ご飯食べて喋っただけだけど」
「ふーん」

『ゆずりはさん』
甘ったるく呼んだ男の声がリアルに蘇る。


「何でそんなこと聞いたの?」
「深い意味はねーけど、」
「あ。それ、もう2回目」

意味が分からず聞き返せば、渡はドヤ顔で「深い意味はねーけど」と俺の口真似をしてみせた。

「似てるっしょ」
「全っ然。これっぽっちも似てねーし」
「小学生か。男子って絶対進歩してないよね」

楽しそうに渡は笑う。にかっと笑う訳でも、女女した笑みでもない、不思議な表情。
「うっせ、馬鹿」
「そんなことで怒んないでよ。純粋でいいなって、むしろ褒めてんだから」


渡は、なぜ俺といるのだろう。
付き合っている訳でもない。学校が同じという訳でもない。
勉強を教えてほしいなら、俺よりも赤司か緑間の方が適任なのは渡も知っているはずだし、単に男といたいなら、普通は黄瀬に行く。


むしろ、その問いは俺自身に向けた方がいいのかもしれない。

なんで俺は渡といるのか、と。
そもそもの出会いから最悪だった。
未遂だったとは言えスリだ。
じゃあどうして文化祭まで行ったんだっけか、と記憶を辿り、初対面の日の車中でのやりとりを思い出した。

渡は、帝光バスケ部と言っても全中出場と言っても、特に反応を示さなかったのだった。
全中に優勝した日もそうだ。ユニフォーム姿のまま荒れていた俺に、何があったのかと聞くどころか、自分の愚痴を延々喋りだした。


最初は、変な奴だと思って、ただ物珍しかった。バスケから切り離した俺と、接してくれる人間がいるのだと。

だが、今は。


「青、ファミレス通り過ぎちゃうよ? わかんない問題があるんだってば」
「……俺疲れてんだけど」
「1題だけだから! お願いしますぅ」
「……ったく、わーったよ。いっこだけな」
「サンキュー、青」



俺は、渡のことが、好きなのかもしれない。



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