32

急いで校舎から出ると、正門前にちょっとした人だかりが出来ていた。
きっと渡だ。

探す手間が省けたのはいいものの。

「ちょっとキミ〜、だからさ、誰待ってんの?」
「清桜のお嬢様をこんなところで待たせるなんて酷いね、そのカレ。俺たちにしとかない?」
「えー、悪いけど無い無い」
テニス部員らしく、ラケットを肩に掛けた3人組が渡を取り囲んでいた。

案の定というか、渡本人はいかにも手慣れたようにあしらっている。

口を開きさえしなければ可愛い部類に入る奴だ。男慣れしているのだろうが、何だろう、もう少し慌ててほしい。

「あ、来た。青〜」
俺の姿に気付くと、渡は嬉しそうにぶんぶんと手を振った。
「青? そんな苗字の奴いたっけか?」
「さあ……」

「え、バスケ部の青峰って知らない?」
渡の言葉に、テニス部の連中はぎょっとしたように振り向いた。


「うっわぁ〜逃げてっちゃったよ。あんたガラ悪っ」
「人がせっかく来てやったっつーのに全く罪悪感ねぇだろお前」

「……悪かったとは、思ってるよ」
いつも通りの掛け合いが続くと思えば、ふいに真顔になるものだから、渡の顔を直視できなくなった。

「……もういいから、帰るぞ」
「はいはーい」
そっぽを向いて歩き出すと、軽い足音が断続的に聞こえた。


ああ、そうか。俺と渡じゃ歩幅が全然違うのか。

図書館の帰り道はいつも並んで歩いているはずなのに、今更そんなことに気付かされる。
歩調をふっと緩めると、追い付いた渡が意外そうな眼差しを向けてきた。

「あり? 青が待ってくれるなんて珍しい」
「……深い意味はねーけど、よく考えたら背ェ30センチ以上違うんだなって思ってよ」

「ゆっくり歩いてくれると助かるけど、らしくなさすぎて……明日遊星Xでも降ってくるんじゃない?」
「駅まで走り込むか」
「さっせんしたァァ!!」

遊星Xってなんだよ、せめて雪にしとけよ。そんなことを突っ込もうとした時、渡の左手がこつんと俺の右手に当たった。

外気と同じくらいひんやりした感触に、思わずたじろく。少しオーバーだったかと、横目で渡を見れば、渡も俺を見ていた。

「なっ、なんだよ?」
「手、熱いね。外はもう寒いのに」
頬が熱い。秋の日の短さに、心から感謝した。

「……バスケしたばっかだからだろ。ってかお前の手、冷たすぎ」
「運動してないし、10分くらい外で立ってたから」
「……そりゃ悪かったな」
別に、と素っ気ない返事で、会話はぷつりと途切れた。

いつもなら沈黙に気まずくなることなんてないのに、今は何を言えばいいかわからない。変に意識してしまっている。

何を?


渡、を?



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