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携帯が鳴ったのは、練習終了後、部室で制服に着替えている最中だった。

「おい青峰、部活中はマナーモードにしておけと言っているのだよ」

間髪おかず苦情の声が飛んでくるが、無視して携帯を開いた。相変わらず口うるさい奴だ。
それにしても、電話なんて一体誰からだろう。

「あ〜? 固いこと言うんじゃねぇ……よ」
「むしろ青峰っちが固まってるみたいっすけど」

着信先は、渡ゆずりはと表示されていた。

「……え!! ちょっ!?」

一体何があって、俺に電話なんて掛けてくるのか。
そういえば電話が掛かってくるのは初めてで、というかかなり気まずくて、メールの返信をしそびれていたことを思い出し。

え、マジでどうしよう。
俺の頭はショート寸前だった。

「おっ、ゆずりはちゃんからじゃないスか。やる〜」
「あら〜どんまい青ちん」
「自業自得なのだよ。だが安心しろ。おとめ座の今日の運勢は1位だったぞ」

携帯を握りしめるその間にも、着信音は流れ続ける。爆笑するギャラリーの中、赤司が見かねたように口を開いた。

「とりあえず電話に出たらどうだ」
「お、おう」
反射的に通話ボタンを押してから、深呼吸でもしておけば良かった、と少し後悔した。


【もしもーし、青?】
電話越しに聞こえる声は、いつもより高い。
「……そうだけど」
【部活終わった? 今、わたし、帝光の正門? 前にいるんだけど】

「はあっ!? おま、何で!?」
【うっさいなー、数学全然わかんないんだもん。まだ6時前だし、ファミレスかなんかいこーよ】
「ちょっ、え!? 俺、部活終わったばっかなんだけど」
【いーから校門前で待ってるね】

ブツッ。


「渡は何だって?」
楽しそうな赤司の声で、再び全員の視線が俺に集まった。
「……正門で待ってるとよ」

俺の顔を見た途端、全員が一斉に視線を逸らし、揃いも揃って腹を抱えだした。あの緑間ですら手で口を抑え、肩を震わせている。

何なんだ一体。マジでムカつく。

「青峰、とりあえず急げよ。まさかその格好で行くんじゃないんだろうな」
爆笑の渦の中、赤司にそう言われてはっとする。

そそくさとシャツをはおってさっとボタンを閉めた。黙って鞄をひっつかみ、扉を開けようとしたその時、後ろの方で盛大にむせた奴がいた。

黄瀬だな。後で殺す。


殺意を込めてドアを閉め、けれど足どりは軽かった。



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