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「はい、みんなー、5分休憩入りまーす」

さつきの声が響くと、ほとんどの部員が待ってましたとばかりに部室に向かった。


広くなった体育館を満喫しない手はない。ダンクでも決めようとドリブルを始めた途端、突然頭上に何かが過ぎていった。

「どわっ!?」
真っ直ぐネットに入ったボールは、俺の足元まで転がってきた。

「唯一の休憩だというのに、随分と練習熱心なことだな」
散々サボり続けた割には、という副音声が聞こえてくる恐ろしさ。
「……わーったよ。休めゃいいんだろ」

「桃井、スボドリ2本持ってきてもらっていいか?」
「あ、はーい」
さつきは何やら作業していた手を止め、部室へ走っていった。


やばい。
この広い体育館で、赤司と2人きりになってしまうとは。

「緑間から、お前が最近部活に来なかった理由を聞いた」
赤司はあくまで感情を込めず、続ける。
「バスケよりもやりたいことがあるなら、俺は無理に止めない。全中も終わったことだし、実質的には引退しているようなものだからな」
「……ああ」

「だが、バスケを何かの逃げ道として使うぐらいなら、やめろ」
赤司は射るように俺を見上げた。

「そんな訳、」
「無いと言い切れるのか? 今日のお前の練習態度は、まるで心ここにあらずだったぞ」


ぐっと言葉に詰まる。
昨日のことが頭に引っかかっていたまま練習していた、言われてみればそうかもしれない。ぐるぐる、ぐるぐると。渡のことを。



すると、
「赤司くーん、持ってきたよ〜」
場違いに明るい声がやってきた。

「ありがとう、桃井」
さつきからきんきんに冷えたペットボトルを受け取り、キャップを開ける。飲めば少しは頭が冷えるだろうか。

「そうは言っても、レギュラーのお前が全く来ないことが、他の部員に示しがつかないというのも事実だ」
「……だから?」

「無理にでも感情と折り合いをつけるか、お前が納得できるところまで……落としてこい。それができるまでは部活に出るな」
「!?」

半年以上もまともに練習に出てない俺に、今更言った真意は、一体。
昨日の試合中に渡と話し込んでいたが、何か思うところでもあったのだろうか。


「え、赤司君、どこまで知って……?」
「桃井、馬鹿につける薬は無いそうだ。放っておくぐらいでちょうどいい」

明らかに俺に向けられた言葉の意味を、理解することは出来なかった。



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