27


通用口と書かれた扉を開け放つと、ニーハイ姿の渡と、すぐ側に寄せられた白いスポーツカーが目に入った。渡はスーツ姿の若い男と話しているが、車に乗り込む気配は無い。

声を上げようとした途端、勢いよく開けた反動で、通用口の扉は大きな音を立てて閉まった。

振り向いた渡と、視線が絡む。

「青……どうしたの」
その目は驚きで見開かれていた。けれど、俺が来たということよりも、俺の顔を見て驚いているように見える。

今、俺は一体、どんなカオをしているのか。


「……さつきが探してたぜ」
咄嗟に思いついた言い訳に、我ながら情けなくなった。『その男が婚約者なのか』と普通に聞けばいいだけの話なのに。

自分がどんな表情をしているのかすら分からず、言葉も出てこない。


「あ……ごめんって言っといて。本当ならあと2時間は自由時間のはずだったんだけど」
「頼むから睨まないで、ゆずりはさん。僕が仕事を早く切り上げられるよう、社長がわざわざ取り計らってくれたんだよ」

「親父が……ウザいなあ」
優男は曖昧に笑いながら渡を宥める。そして、俺に視線を移した。

「それで、そこの彼は君のボーイフレンドかい?」

「……俊一郎さん、それどういう意味ですか」
「そのまんまの意味。二股は掛けてほしくないんだよ、一応婚約者である以上は」

婚約者。その単語を耳にしたのは初めてではないはずなのに、重く響く。

「わたしは別に、俊一郎さんが何股かけていようと気にしませんが」
「……さすがにそれは酷いんじゃない?」
「気に入らないのなら、もう帰って下さい」
渡は皮肉っぽく吐き捨てると、こっちに足を進めようとした。


だが、優男は渡の肩をぐいと引き寄せる。耳元で何やら囁かれた瞬間、渡の口元がぎゅっと結ばれた。

渡は、優男の手を振り払いながらじろりと睨み、そして背を向けた。顔は見えない。


「……青、ごめん。やっぱ行くわ。じゃあね」
「……ああ」
立ち尽くす俺に、優男が振り向きざま、口元で笑ったような気がした。



地を這うようなエンジン音は遠ざかり、白い車体は見えなくなった。
無意識にボールをバウンドしかけて、手に何も持ってないことに気付いた。

俺は一体、何に動揺してんだ。

入ってきた情報量が多すぎて、頭の中は空っぽだ。

「物腰スマートで大人なイケメン。大ちゃんとはまるで正反対のタイプね」
突然聞こえてきた声に、心臓が飛び出るかと思った。
「さつき……っ、いつから」


「だから言ってるでしょ、大ちゃん。今日、気を取られすぎ、って」
さつきは深くため息を吐きながら、扉を開けた。



その後のことはよく覚えていない。

学校で、2年と共に、赤司から説教を食らったような記憶はある。どうでも良くなって適当に相槌を打っていたら、
「……もういい。お前はもう帰れ」
と、それだけ言われて帰された。

家に帰ってもまだ妙な感覚は拭えず、風呂に入ってとりあえず寝た。

疲れによるものだから、寝れば治る。
そう自分に思い込ませて。



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