19


「あ、やば。もう5時前だ。青、そろそろ行こっか」

ふと、改札の時計が4時47分を差しているのが目に入った。どうやら15分以上も立ち話をしていたらしい。
図書館は7時すぎには閉館してしまうから、急がなければ勉強できなくなってしまう。

「おー。そうだな」
「貴様、青峰に勉強を教えてやっているのか?」
「ううん、数学だけ教えてもらってる」
「青峰に!?」

緑男はよほど驚いたのか、まさに開いた口が塞がらない様子だ。
「おいおい、頭良いからってひでーな」
「……言われてみれば数学は人並みにできてたが、こいつに勉強を……」

「塾とか家庭教師は嫌だから。ま、数学以外は教えてあげてるけど」
だが緑男は信じられないと言わんばかりの態度を崩さない。さすがに腹が立ってきた。

「じゃあ何? そんな偉そうなこと言えるぐらいあんたは成績良いの?」
緑男はじろりとわたしを見下ろした。

「少なくとも青峰よりはな。学校でも成績上位だと自負しているが」
「ほっほー、言ったね? じゃあその秀才さんに教えを賜ろうじゃない。今日のラッキーアイテム、ちょうど数学の参考書だしさ」
「受けて立つのだよ」

まんまと乗せられてやんの、と心中で舌を出していると、おもむろに青が呟いた。

「お前って意外と強がりで負けず嫌いだよな」
「……うるさい」

ちょっと図星だった。


そして、数十分後。


「貴様の理解力は一体どうなっているのだよ!? このパターンの問題を何度解説したと思ってる?」
「だって、わっかんないんだもーん」

緑男の説明は確かに分かりやすいのだが、いちいち気に障るのが難点だ。
「俺を小馬鹿にしているのか……!」

でかい男が2人も占領しているからか、他の机はどこも満席なのにわたし達の机だけ空席がある。おかげで6人掛けの広い机をゆったり使えて大助かりだ。

「そりゃもう覚えちまった方がいいんじゃね? 3、4回数こなしゃ覚えるだろ。でさー渡、元寇って何年と何年だっけ?」
「1274年文永の役、1281年弘安の役だよ。常識だから覚えようね」
「暗記ものは無理なんだよ。日本史の総復習とかマジありえねー……」

ちらっと青の宿題プリントを覗くと、半分以上が空欄だった。
「元寇の寇が冠になってる」
「え? 違うの?」

漢字力の無さは折り紙付きだな、と苦笑しつつ余白に正しい字を書いていると、突然頭に衝撃が走った。


「まだ解きかけなのだよ。よそ見する余裕は無いぞ」
「やけに痛いと思ったら教科書の角だった!?」
「さっさとやれ」

「青〜、ミドリさんが苛める〜」
「み、ミドリさんではない。緑間だ」
「昭和の女っぽくていんじゃね?」

2人で腹を抱えていると、ミドリさんのシャーペンがぼきりと音を立てた。

「全く何なのだよ貴様らは!! 勉強する気が本当にあるのか!!」




「「図書館ではお静かに」」



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