13


「あー、早い話が、今から受験勉強始めなきゃいけないってことなんだな?」
「そゆこと」
マジパに入ってから喋り続けること1時間あまり。当然、わたしのすっきり度と青野郎の疲労度数は反比例しているようで、げっそりという表現が見事にマッチしている。

「あーごめん、なんか疲れ果ててるみたいね」
「当たり前だろ……俺もう駄目だわ。疲れた」
青野郎は力尽きたようにテーブルに突っ伏した。その拍子にころん、と空になった紙コップが転がる。
「青野郎、何か食べる?」

「食う。……けど、その呼び方止めろ」
「何でさ。いいじゃん別に」
「俺が嫌なんだよ。普通に苗字で呼べばいんじゃねーの?」
青野郎はむくりと身を起こした。

「うーん。ひねりが無くて嫌なんだもん。他の呼び方考えとくから、とりあえず頼むもの決めて」
「お。奢りか。じゃ、遠慮なく」

青野郎のオーダーは本当に遠慮無かった。テリヤキバーガーのセット、しかもLサイズが2つ。これでもおそらく彼にとっては少なめなのだろうが、わたしではとても食べ切れない。


ずっしり重いトレイを持って席に戻ると、青野郎は携帯をいじっていた。
「ほい、ポテトセットのコーラ付き」
「サンキュ」
椅子に座り、自分の分を取ろうとした途端、手元に視線を感じた。

「え? お前、晩飯それだけ?」
わたしが頼んだのは、フィレオサカーナ1個と、すっきり白ぶどうSサイズだった。わたしにとっては別段平常通りなのだが。

「うん。まあ。いつもこんなもんだよ」
「少なっ! 俺の周りの女、全然もっと食ってる」
「さっきの彼女とか?」
「ああ、さつきな。あいつも結構食うな」

ギャップ萌え。そんな言葉を引き金に、果てない妄想タイムが開始してしまうのを必死に食い止める。
「……ふう」
「……今の数秒間何があった」
「まだ年齢規制掛かんないレベルだから大丈夫。あ、そういえばメアドくんない?」


「唐突だなおい。まあ別にいいけどよ、何で?」
気付けば青野郎のテリヤキバーガーは消えていた。
「わたしが仇名で呼んでるのって、結構人の名前を覚えられないからなんだよね。その点、アドレス帳にメモっとけば安心じゃん?」
「初めて聞いたわそんな理由」

わたしのスマホに「青峰大輝」が追加された頃、やっとフィレオサカーナを食べ終わった。

とっくに日は沈み、窓の外は暗い。いい加減に帰らないと母さんの説教が長くなるだろう。

「今更だけどよ、お前、家に連絡してなくね?もう7時過ぎてるけど」
「そこはまあ非行に走ってる身ですんで。でも、さすがに帰った方がいいかも」
青野郎はぷっと吹き出した。

「高校のこと親に申告しなきゃなんねぇし、今日は寝かしてもらえないかもな〜」
「下に走るな、青。……あっ」

これ、いいかも。

「青野郎よりはまだマシだけど……」
「帝光ブルーが良ければ」
「青で結構です」
「んじゃ、帰るかね、青」


マジパを出てすぐが駅の構内だった。路線は同じだが進行方向が逆だったため、青とは改札で別れる。

足が、重く感じた。



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