12


カラスの鳴き声をずっと聞いていると、人間の喘ぎ声に聞こえてくるらしい。
公園の木にとまるカラスを見ながらのろのろと歩いていて、ふとそんなことを思い出した。

「全然聞こえないけどねっ!」
ふつふつとこみ上げる怒りを小石にぶつけると、カンッと音がしてフェンスに跳ね返った。これが校長の顔だと思って蹴ってみようか。

ちょっと楽しくなってきたところに、そのフェンスの向こうからダン、ダンダン、と何かを打ち付けるような音が聞こえてきた。

「……大ちゃ……なんで…くろ……」
何だろうと耳をすませば、女の子の声も混ざっている。
「……うっせ……関係ない……」

何だ痴話喧嘩か。
結局イライラを倍増させただけだった。

さっさと通り過ぎてしまおうと歩き出した途端、どんと衝撃が走り、柔らかい感触が背中に押し付けられた。

「きゃっ、ごめんなさい!」
「こちらこそありがとうございます」
「は?」
ごめんなさい、って言おうとした筈なのに口につくのは感謝の言葉。いい加減末期だ。

「いや、お気になさらず」
だが、桃色の髪の巨乳美人は思い出したように駆けて行ってしまった。こうなればどんな彼氏だか見ないと気が済まない。


またダン、ダン、と断続的に音が聞こえ始める。通行人Aを装って横目でチラ見すると、視界に青色が横切った。

「え」
小さく飛び出した筈の母音がやけに大きく響く。タァーーン、と小気味良い音がバスケコートに反響して、消えていった。

「あ?」
青野郎は汗を拭いながら振り返った。袖なし半端丈の水色のユニフォームには帝光とかかれていた。

「お前……何でここに」
「それはこっちの台詞。ってか、あの子彼女? めっちゃナイスバディなんだけど。F? G?」
歪みねえな、お前。と青野郎は呆れたようにため息をついた。

「ちげーよ。ただの幼馴染」
「ガチで裏山行って来い」
「んだよ、うっせぇな。てか意味分かんね」
もともと良くない目つきが、更に悪くなっている。

「なんかあったの?」
数秒の沈黙の後、青野郎は低く声を発した。
「……関係ねぇだろ、てめぇには」

怒っているのに、悲しげに見えたのは何故なのか。


微妙な距離に耐えられず、革靴のままバスケコートに足を踏み入れる。
「ねえ、もっかいシュート決めてみてよ」
「はあ? ふざけんな」
「いいでしょ、減るもんじゃないし。それに、なかなか見れなさそうだもん」
「セクハラ親父か」

ぶつぶつと渋りながらも、青野郎は三歩ほど下がりボールを構えた。その場で何度かバウンドさせ、一気に踏み切る。

ダン、ダン、ダダン。

ダンクシュートが簡単に見えてくるほど、その動きに無駄は無い。上空から的確に落とされたボールは、3,4回跳ねると、地面に転がった。

「すごーい」
「……やらせたわりには感動が少ねぇな」
「結構感動してるよ。してるんだけど、今のわたしにこれ以上のテンションを求めないでほしい」


校長の手前、大口を叩いてみたものの、半年で受験勉強というのはかなり思いやられる訳で。それに、よく考えてみれば受験まで実質4ヶ月も無い。

もし軽音友達との飲み会がバレただけだったなら、1週間の謹慎処分で済んだはずだ。青野郎達さえ来なければ、こんなことには(多分)なっていない。

「何だ、もしかしてアレの日……どわっ!?」
脛を思いっきり蹴ると、青野郎はうずくまった。今のは正当化されていい攻撃だと思う。

「ねえ。ちょっと愚痴に付き合ってよ」
「あー痛てぇ……誰が付き合うかそんなもん」
青野郎の虫の居所が良かろうが悪かろうが、わたしには関係ない。

返答は全て無視し、引きずるようにして駅のマジパに連れ込んだ。





***
全中三連覇後の青と遭遇してます。

当作品では諸事情(原作読み込み不足)のため、全中が9月後半に延期されてます。
すみません……適当に辻褄あわせて読んで下さいm(_ _)m



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