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「どうぞ」

和室の中、客の目の前で、リアルタイムで抹茶を振舞う。

それがウリの茶道部の出し物は、毎年受験生やその保護者にも定評がある。制服好きな日本人としては、部員全員が着物を着ているのも評判がいいらしい。
それに加え、客1人につき部員が1人つくため、席数は少ないものの、少しでも特別な時間を味わえる……

みたいな。


「けけけ結構なお点前で」
「鶏か」

わたしの目の前に正座する青野郎は、さっきからおかしすぎる行動を連発している。

ちなみに、2号やほくろクンは他の部員が接客中だ。
わたしがわざわざ青野郎の相手をしているのは、嫌がらせをしたかったから。早い話がそれに尽きる。

「本来、茶道とは美味しく頂ければいいものですので、格式などはお気になさらずお召し上がり下さいな」

「……テメェ完全に馬鹿にしてるだろ」
「うん。だって、想像してみ? 190センチ超の男子がちっちゃく正座してるんだよ? もう考えただけで爆笑ものじゃん」
事実、かなりウケる。

「うっせぇな〜っ! じゃあ胡座かいてやるよ、胡座!!」
ドスン、と音を立てて青野郎は足を崩した。
「別にわたしはそんなこと一言も言ってないけど。もしかして、足が限界だったとか?」
「〜〜ッ! テメェ……!」

「はいはい、図星なのは分かったから、お抹茶飲んだら。冷めるよ」
散々やりこめられた後だからか、言い負かすのが楽しくて楽しくてたまらない。

「……わーったよ。って熱ッ!?」
「マジざまぁ」
青野郎は猫舌のようで、何度も息を吹きかけている。見た目とのギャップが面白くて、なんとなく観察していると、青野郎は唐突に顔を上げた。

「やっぱ変だわ、お前」
「は?」
相変わらず失礼な男だ。
「いや、なんつーのか、グレてるくせに茶道部とか、合わねえなと思ってよ」

「非行少女が抹茶好きじゃ駄目なの?」
「そういうことじゃなくて、いかにも金持ち、みたいなことが好きっつーのが……」

「ま、確かに、『金持ち』自体は嫌いだけどね」
言外に発した拒絶を察したのか、青野郎は黙り込んだ。


2号の周りに群がる女の子達の声が、どんどんヒートアップしていく。モデルを入り口側に座らせた効果が出ているのか、客がめっきり増えたようだ。黄色い声が、四方八方から入り混じる。


騒がしい。



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