無自覚性依存性

「ねーねー、ツッキー」
「なんだいゆずりはさん」

防音室にマイクで間延びしたわたしの声が響く。
ツッキーは清桜時代と変わらずドラムを叩く手を止め、迷惑そうに顔を上げた。

「今夜って合コンの予定ある?」

その時、バンドメンバー全員が同時に音を外した。




ツッキーのツテにより参加できることになったのは、わたしの希望通り大人数の合コンだった。
大学の近くにある居酒屋で、照明がほどよく暗くていい感じだ。のれんをくぐると、幹事のコにひらひらと手を振られた。

「ごめん、ちょっと遅れた? もう皆集まってる?」
「ううん、大丈夫。あと3人来るから」
「そっか」
ほっとしながら端の方の椅子に座る。

わたしの姿に気付いた人たちは一様に驚いた顔をした。顔すらも知らない人がほとんどだが、向こうはわたしのことを知っているらしい。

真向かいの男が我先にと話しかけてきた。

「あれ? 渡ゆずりはだよね? perhapsのボーカルの」
「あ、どーも。よくご存知で」
「そりゃあ知ってるよ。めっちゃ目立つし、それにあの青峰大輝の彼女だろ?」

その男は、少し言いづらそうに青のフルネームを発音した。


「ごめん、今、名前も聞きたくない」

そんなわたしの台詞を耳聡く聞き取った男たちは、声を揃えて「別れたの?」と言った。
興味津々、あわよくば飛びつかんばかりの勢いだ。

妙に食いつかれたおかげで他の女の子たちからの視線が痛い。どうしようかと辺りを見回すと、まだ来ていなかったという3人がちょうどやって来た。

その中の一人を見て、女の子たちの目の色が変わり、時間差で男たちの空気が変わった。

今さっきわたしに向けられた現象の逆パターンが起こっている。
ちょうどいい。相手もわたしに気付いた。


「え、お前……」
「ちょっとぶりだね。ティガーくん」

驚く彼にいっそわざとらしいまでに愛想笑いを振りまけば、男性陣が素早くティガーくんの席をわたしの隣にあてがった。

わたしをゲットするチャンスは潰えるが、このままではティガーくんが女子の人気を独占すると判断したのだろう。英断だ。


「あー……えーっと、お前何でこんなところにいんの?」
椅子に座りつつ、困ったように聞かれたから、どストレートに答えることにした。



「青と喧嘩したから、思いっきり酒あおりたくて」


何飲む? と聞いてきた幹事ちゃんに、生中、と声高に叫んだ。



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