3

「君がどれくらい食べるのかいまいち分からなくてね。青峰君、足りなければ遠慮なく言ってくれよ」


「多分……大丈夫だと思います」

俺の目の前に並べられたのは、フレンチのフルコースだった。
親父さんいわく渡家のお抱え料理人が作ったものらしい。当然、高級レストランでも通用しそうなクオリティだ。

俺はぜひ、紙とエスカルゴの区別すらつかないような精神状態ではないときに食べたい。



「親父、青がガチガチじゃん。せっかく美味しいご飯出てきてんだからもっと和やかにしようよ」
「あーゆずりは、それを父さんに求めちゃ駄目駄目」

仕事がちょうど空いていたらしく、多忙を極める現社長、兄貴は飛び入りで参加していた。一応見知った仲だから、いてくれるのは有難い。


「なんで?」
「あのねぇ、大事に大事に育ててきた愛娘に彼氏ができたときの父親の気持ちがお前に分かる?」
「知らんがな」

親父さんは黙ってワイングラスを傾けている。その沈黙が逆に不安だ。
と思ったら不意に目が合った。これはもっと怖い。


「そういえば初対面なのにちゃんと話をしていなかったね。君のこと、改めて僕にお聞かせ願えるかな?」

コントを展開していた渡兄妹も、口を閉じて俺を見た。


大丈夫だ。俺ならできる。きっといける。オレはオレだ。
あ、関係なかった。



「挨拶が遅れてわ……すいません。青峰大輝と言います。ゆずりは......さんとお付き合いさせて頂いてます」

さん付けがよほどおかしかったのかゆずりはは下を向いて笑いをこらえている。
だが、そのほかは多分きちんと言えているはずだ。


「まあ、こちらもバタバタしていたしそれは気にしていない。話には聞いていたしね。実際会ってみて、直感が確信に変わったよ」

親父さんの顔は険しいままだ。
まさか、今度は俺のせいで別れるなんて話になるのだろうか。

数秒の沈黙のあと、親父さんはゆっくり口を開いた。



「青峰君、娘をこれからも頼む」

親父さんは相好を崩した。



本当に、本当に心からほっとした。

これで名実ともにゆずりはを好きでいられることを認められたのだ。3年半ごしの望みが叶ったといっても過言ではない。

「こちらこそ……よ、よろしくお願いします」


「……にしても父さん、回りくどすぎじゃないか? 青峰君が可哀想だったよ」
「そーそー。タメないでさっさと言えば良かったのに」
まぁ面白かったけど、という一言は俺の自制心のために聞かなかったことにした。


「薫の言う通りやっぱり癪なんだよ。娘の彼氏というのは。だから、ちょっと困る姿が見たくてね」

険しい顔なんてどこへやら、親父さんは愉快そうに笑った。

ああ、間違いなくゆずりはの家族だ。



俺は、思いっきりため息を吐き出した。




fin.



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