2

ゆずりはに連れられるまま、渡家の大富豪ぶりを存分に堪能したころ、ゆずりはは純和風の引き戸の前で立ち止まった。

「……え?」


どんなアンビリーバボーな部屋に案内されるかと思えば、そこは4畳半の和室だった。

ちゃぶ台と座布団数枚。湯沸かしポットと菓子の袋がいくつか。隅の方に勉強道具らしきものも転がっている。
だが、それだけだった。

「あ、掃除してないわ。ごめん、汚くて」
「それは別にいーんだけど……ゆずりは、ここって」
「わたし専用茶室。寝るとき以外は基本ここにいるかなぁ」

ゆずりはに勧められるままに座布団に座る。
視点を低くしても殺風景なのは変わらない上、驚いたことにこの部屋には窓も無いようだった。


「俺の部屋より狭いんじゃねーの?」
「多分そうだと思う。でも寝室の方は10畳以上あるから」
「広っ! ウチのリビングの1,5倍はあんじゃん。この部屋いらねーだろ」
「だってあそこの部屋うるさいんだもん」


よく見ると、壁は4面とも防音壁のようだった。道理で静かだったわけだ。

「……核シェルターみたいだな」
思わず口に出してしまってからはっとした。


「は? 何それ」
「いや、えっと、それは」
「……まぁ、確かに外れてはないかも。青、お茶飲むよね?」

俺が茶を飲むことは決定事項らしい。ゆずりはは返事も待たずに部屋を出て行ってしまった。



ちょっとまずったな。
薄緑色の壁に背中をあずけて天井を見上げる。
4mはあるだろうか。まるで監獄のような部屋だが、天井だけは高い。

きっと、完全に遮断された部屋に逃げ込まないとやってられないような家庭環境だったのだろう。


口は災いのもととはよく言ったものだ。思いっきり地雷を踏んだような気がする。
さっきは平気そうな様子だったが、ゆずりはの内面の感情はほとんど顔に出ないから、ダメージを受けていても分かりづらい。

とりあえず謝ろう。


そう思い立った矢先に戸が開く音がした。飛び起きて引き戸の前にがぶり寄る。

「ゆずりは、さっきは俺が」


「……そのゆずりはの父ですが」

俺の目の前に立っていたのは、高級そうなスーツを着こなした初老の男だった。

「どわぁっ!? す、すみません間違えました」

ゆずりはは親父の後ろで声も出ないほど笑っている。
マジかよ。

「茶道具取りにいこうと思ったらちょうど親父に会っちゃってさ。ははは、びっくりした?」
「……心臓止まるかと思った……」

俺はのことを少々みくびっていたようだ。


「それは悪いことをしたね。ゆずちゃんも、こんな狭いところじゃなくて下の応接間に通してあげればいいのに」
「嫌だよ。あそこめっちゃイヤミだし」

「ともかく、あと少しで夕食の準備が終わるから、1階へ降りようか。青峰君」
「は、はい」


こんなことなら部活で敬語の練習をしとくんだった。
初めて切実にそう思った。





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