ティガー来たる

ピンポーン。
台所に立っていると、突然チャイムが鳴った。

「げ。青まだ帰ってきてないのに……」

この部屋の主ではない自分が応対していいものか数秒迷ったあと、わたしはドアを開けた。






大学生になってから、青は1人暮らしをするようになった。

もちろんわたしは週5のペースで入り浸っている。合鍵も持っていて、いわゆる半同棲という奴だ。
友達にはやいのやいの言われたが、わたしにはむしろ自分の家に帰る必要性を見出せない。

とはいえ、居座るばかりじゃ不公平だからご飯は作っている。

今日もまた学校の帰り道で材料を買い、いざ調理を始めようとしていたところだった。





「はーい」
「……え? あんた誰だ?」

大方、郵便か宅配便が届いたのだろうとたかを括っていたから、その返しは予想外だった。

「そーゆーあんたはどちら様?」

眉毛が2本で暗紅色の髪の、青と同じくらいガタイの良い男だ。当然、引き取り証やら段ボール箱やらは持っていようはずもない。


「い、いや、えっと、ここって青峰大輝の家で合ってるか?」
「その通りだけど、青の友達かなんか?」
「同じ部活で……試合のビデオ貸してもらう約束して、6時になったら来いって言われたんだけど……」

威圧感たっぷりの風体をしているくせに、しどろもどろ話すのがなんだかおかしい。
虎のぬいぐるみみたいだな、と思った。


「で、あんたって青峰の……彼女なのか?」
「うん、まぁ」
ティガーくんは興味津々といった風にわたしを見た。


「出直すのもなんだし、青が帰ってくるまで中で待ってる?」

「……いいのか?」
「さぁ。多分ちょっと寄り道してるだけだから、すぐ帰ってくると思うよ?」
「じゃあ、お言葉に甘えて」

こうしてティガーは、6畳ワンルームにおずおずと足を踏み入れた。



カタカタカタ、と鍋が吹きこぼれる音が聞こえてきた。台所へ走る。
たらたら話していたおかげで、肉じゃがが加熱されすぎたようだった。


「……いつも晩飯作ってんの?」
「そ。土日以外はずっと居候してるからね。これくらいはやんないと青に悪いから」
「へー」
ティガーは音の気配からして部屋をうろうろと見て回っているらしい。


肉じゃがと、きのことほうれん草のおひたしと、あとは揚げ出し豆腐でも作ろうか。
味噌汁のねぎは切っておいて、と。


「慣れてんな」
「ほんと? ちょっとねー、アメリカに留学してた時期があるんだけど、食事がまずくてまずくて。ヤケになってずっと自分で和食作ってたからかな」

「お、マジか! 俺中2までロスにいたんだけどよ、どこだった?」
「残念、ニューヨークなんだわ。でも奇遇だね」
「だよな。スゲーわ」


意外な共通点に感動していると、玄関でドアが開く音がした。




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