3
思わずしばらくの間ほうけてしまった。あとの2人も同じらしく、両隣から生体反応は見られない。
ちょっと待て、と自分の記憶を巻き戻す。
何が起こったんやったっけ?
『逆ギレとか意味わかんない』
確か渡チャンがそう言って、そう、青峰が黙り込んだんだった。
目の前で痴話喧嘩が繰り広げられるのはげんなりだから、フォローを入れようとして、それから。
「……俺が悪かったよ」
あの青峰が、自主的にではないが若松に謝ったのだった。信じられない話だが。
「ねー、敬語は〜?」
「っ、悪かったよ……若松サン」
「……あ、ああ……?」
そして今に戻る。
「まー及第点とします? センパイ達フリーズしてるし。青の素行どんだけ悪かったんだって話だけど」
「……うっせー。お前は俺のこと言えんのかよ」
「全くもって言えないねぇ」
渡チャンがパスタを食べつつ微笑むと、青峰の雰囲気が目に見えてやわらいだ。
その時の青峰の表情は、今まで見たこともないような幸せそうな顔だった。
ワシが中3にスカウトに行ったときと高1で入部したときとで、驚くほど青峰が荒んでいたのは、やはり渡チャンが消えたからだったのだ。
直感的に思う。
なんと表せばいいのか分からないが、とにかく渡チャンが帰ってきて良かった。
「やっぱオモロイな、相変わらず」
中3のときからだが、あの気難しい男を手懐けるなんて一般人にできる芸当ではない。
それに、3年の間に何があったかは知らないが人間として垢抜けた。
ええオンナになったもんや。
「それはそれは、嬉しいお言葉ですね」
けれど、その全てが青峰あってのものだと知っているから、ワシは何もしないし、する気もない。
少し遠くからコイツらの掛け合いを眺めることが出来るなら、それでいい。
fin.
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