3

かお兄には校門の前で車を止めてもらった。車から降りると、12時間のフライトのせいだか時差ボケぎみなんだか、ちょっとグラっときた。


が、そんなことよりも。

視線が集まりすぎてまずい。わたしの体に穴を開けたいのかってぐらい下校中の生徒からガン見されている。

早いとこ誰でもいいからバスケ部を探してしまおう。と部活のバッグの文字を目で追ってみたものの、あるのはサッカー、野球、卓球、バレーだけ。
クソ、籠球はどこにいる。


「あ、」
「ひ、ひいィ!? すみませんすみません」

やっとバスケの文字を見つけたと思ったら、物凄い勢いで謝られた。そんなに怯えなくてもいいだろうに。

「ねぇ、青峰大輝ってまだいる?」
「すみませんすみませんっ……って、青峰さん?」
「そう、バスケ部の。もし帰っちゃってたら……」


「おい良、なんでこんな人がたまってんだよ」


ずっと聞きたかった声が、降ってきた。

「あ、青峰さん、あの」
「あ? 何だ…………え、」
近付いてきた青は、わたしに気付くと、言葉を失ったように固まった。

3年前は僅かに残っていた幼さは消え、すっかり男っぽい。
身長も少し伸びたらしい。学生とは思えない褐色の肌に筋肉質な体は相変わらずだった。


「ゆずりは……?」
「久しぶり、青」

いまだに信じられないようだから、歩み寄って頬に手を伸ばす。
見開かれたその眼にわたしの姿がくっきりと像を結んだ。


急に息苦しくなったと思ったら、青に抱きすくめられていた。ずっしりとした重みが肩にかかる。

「青。苦しい」
「……なぁ、夢じゃねぇよな」
「夢じゃ、ないよ」
「実感わかねぇよ……3年ぶりだぞ」

まるで、わたしという存在を確かめるように腕に込められた力は弱まることがない。


「母親が俊一郎さんと蒸発してさ、叔母さん家にいられなくなったんだよね。ほら、向こうの法律上。一応わたし日本国籍だから」
「……とんでもなくリアリティに溢れてるな」
「でしょ? だからわたしはここにいるの、安心して」


拘束が少しゆるめられたから青の首に手を回すと、触れた肌はとても熱かった。

彼もまた、ここにいる。


「これから5ヶ月、桐皇に通えんのか?」
「ううん。残念だけど高校は卒業しちゃってるから」
「どういうことだよ?」

「日本の1学期って4月からだけど、アメリカは9月スタートなんだよね。今11月だから、向こうだと大学1年生になるってわけ」
「じゃあお前、大学は」
「辞めた」
即答すると、青はくくっと小さく笑った。

「お前らしーな。受験までもう3ヶ月ねぇっつの」
「大丈夫だよ。帰国枠で無理やり滑りこむから」


「ゆずりは、今度こそ一緒の学校に行けるんだよな?」

わずかに震えた語尾に、改めて青には悪いことをしてしまったのだと感じる。
予想よりは早かったけれど、青は3年間も待っていたのだ。不安にならない訳がない。

「もちろん。必ず、一緒に」

青は安堵のため息をもらすと、ふと思い出したように口を開いた。



「ゆずりは、お帰り」

出発する直前に、そんな約束もしたんだっけ。

ああ、帰ってきたんだ、わたしは。




「ただいま、青」






fin.



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