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飛行機を降り、狭い通路を抜けると、出場ゲートと書かれた看板が見えてきた。
公共の場で久しぶりに見た日本語に、つい「おおっ」と声を上げてしまった。近くの人がぎょっと振り返る。

だって仕方ない、3年ぶりなんだから。


スマホの時計を日本標準時に合わせながらゲートを通過すると、どこからか自分を呼び止める声がした。

「おーい、ゆずりはー。兄妹の感動の再会なのにスルーとか、俺マジで泣くよ?」
「わぁっ! かお兄、迎えに来てくれたんだ」


3年ぶりに見たかお兄は、ぱっと見変わったところは無かったけれど、ただ、少し痩せていた。
母親の離婚騒動で、忙しかったんだろうなと思う。

でも、よくよく考えてみれば、これでかお兄が名実ともに『渡』の跡継ぎだ。


「なんか……良かったね、色々と」
「親父以外は、そうかもな」
「親父?」
「ああ。ショックで寝込んでる。やっぱりあの人のこと、好きだったんだろうな」


かお兄のお母さんが亡くなってから7年後、親父は10歳以上年下の母さんと結婚した。まだ小さかったかお兄の母親代わりと言うよりは、親父が純粋に恋愛をしてしまったのかもしれない。
親父は実業家としてはピカイチなのに、女運(娘を含めた)が極端に無いようだ。


「と、いうことで一人暮らしはしばらく認めないからよろしく」
「なんとご無体な……!」
「今まで散々反抗してきたんだから、家にいてやるぐらいはしろよ。お前、恭子さん似なんだし、親父もちょっとはマシになるだろ」
「えー、やだ。せっかくこの機会に約束をうやむやにしようと思ってたのに」


「今日せっかく車で迎えに来てやったのになー、荷物だけ預かって、途中で下ろしてやろうと思ったけどやめたやめた」

かお兄はにやにやしながら、わざとらしく肩をすくめた。さすがはかお兄、気が利いてる。

「偉そうな口きいてすみませんでした。全力でお願いいたします兄上」
「ははっ。じゃあ、行こうか。急げばちょうど6時には桐皇に着くんじゃないかな」


何で桐皇なのかと一瞬思ったが、青の連絡先も知らなければ家すら知らないことに気付いた。
はたして部活に出ているかは謎だけれど、駄目元でも今日会いたかった。
最後は誰かに聞いてみよう、色仕掛けとかで。


自動ドアをくぐり抜け、わたしはおなじみの白いパッソに乗り込んだ。





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