鈍い、鈍い光を放つ真っ黒な拳銃を描いた。
心臓のど真ん中に銃口を突っ込んだら、また少し、目黒リサが軽くなった気がする。


パレットに残った絵の具を削ろうとペインティングナイフを取ったら、今吉の顔を思い出した。

無性に会いたくなった。
諸刃の剣のような、彼に。



美術室を出ると、西の空に赤い残光が漂っていた。
体育館から湧き出てきた運動部が昇降口へと行進している。バスケ部も、いる。

それでも今吉は体育館に残っている、なんて変な確信じみたものがあった。



「今吉」

放たれたボールは、輪っかにはね返って、ネットに入らない。
今吉はシュート練を続けていたが、制服姿だ。
足元に靴が放り出されているあたり、一応は帰るつもりだったのだろうか。

「何の用や。わざわざこんなとこまで来て。もう下校時刻やで」
「知ってる。なんとなく、ここにいるんじゃないかと思って。特に用があったわけでもないんだけど」
私がそう言うと、今吉は本気で驚いたようにこっちを向いた。

「そんな、私が頭でもおかしくなったんじゃないかって顔するの、やめてくれる?」
「いや……悪いな。あまりにもびっくりしたもんで」
「どのくらい?」
「お前さんがワシの隣のクラスだって知ったときぐらい」
「具体的すぎて涙が出そう」

お前さんがそんなタマか、と鼻で笑った今吉は、今度こそシュートを決めた。


今吉は落ちてきたボールを片手で取ると、落ちていたビニールの袋につっこみ、きゅっとその口を閉めた。

紐を肩にかけて、今吉は私の傍らに立った。

「じゃ、帰ろか」

ボールのゴムの匂いが鼻をかすめる。
今吉は甘さなんて欠片もない笑顔を浮かべて、私の髪に指を滑らせた。

恋人ごっこ、したいんやろ?


ナイフで刺されたような衝撃に、ぐっと息が出来なくなった。
言葉なんて必要ない。蔑みが、指先から伝わってくる。

はりぼての甘ったるく浮ついていた頭が、急速に冷え切った。


「そうだね。せっかくだから、今吉の家に行きたいな」
「彼氏でもないオトコの部屋に、1人で?」
「別にいいよ。この前別れたからフリーだし」


泊まるから、途中コンビニ寄っていい?

そう言うと、今吉は乾いた笑いを漏らした。


私たちは、こうでなくちゃ。



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