ふと、目黒リサは散弾銃に似ていると思った。
どうしてだかは、分からないが。
とりあえず卒業式というおセンチな空気にやられてしまったことにしておいて、腫れぼったい講堂から出る。
写真を撮る人の輪から3歩ほど外れたところで、リサは背を向けて立っていた。
強風。瞼。後ろ姿。ひとり。
リサと初めて会った日を思い出して、声を掛けるのがためらわれた。
何かを言った瞬間に、リサの幻が崩れ落ちて、目を開けたらそこはインターハイ翌日の朝。
ついそんな気がしてしまう。
「だれ?」
振り向いた拍子に、リサの短い黒髪が小さな放物線を描く。
あの日と違うのは、それだけだ。
「こんなとこに人がおったんか。って言うべきなんかな、ワシは」
「そのやりとり……なに、あの日に戻りたいわけ?」
リサはざらついたコンクリートに2回、ローファーのヒールを叩きつけた。
「そうさなぁ、ま、戻りたいとは思わへんで」
「ふぅん? もし、あの後輩をもっとしごいとけば、1回戦敗退なんて結果にはならなかったかもしれないのに?」
「そうかもしれんし、そうでないかもしれん。過ぎたことはもう、しゃあないやろ」
「あんたはいつもそう言うね」
「生憎、リサと違って、未来に希望があるんでな」
夏に向けて拡散していく春の日差しに目を細める。
練習のときはずいぶんと苦しめられた暑さも、そして寒さも、今は思い描くことすらできない。
まさに、夢を見ていたような。
人生なんて案外そんなものかもしれない。
「でも、早いな。もう卒業かーー」
右に左に向きを変え続ける突風が、髪を撫で上げ、木を揺らし、グランドを渡っていく。
リサはスカートをおさえながら、風の音に抗うように声を張り上げた。
「今日は泣いてないんだね、翔一?」
銃声が連続して、条件反射で肩が跳ねる。
「楽しそうで何よりやわぁ」
「だって翔一、って呼ぶと撃たれたみたいな顔するんだもん。面白くて」
心臓に悪いからやめてくれと言うと、リサは笑って、
「翔一」
胸がひらかれるような、そんな弾丸を放った。
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