21 違和感

朝起きたときから、身体の真ん中あたりにくすぶる倦怠感にマキは薄々気付いていた。

その原因は分かりきっていた。昨日、おとといと昼夜構わずネックレスを探し回っていたせいだ。

「マキ、はよ着替えな遅れるで」
「はいはい、っと」

ベッドの下のキャリーバックに手を伸ばすと、まだ袖を通していないヒートテックは2枚しか残っていなかった。

休養を取るのは明日の晩、京都に帰ってからで十分だ。

両腕を上げてパジャマをたくし上げると、顔に何かひんやりしたものが当たった。
訳も分からず叫んでから、それが寝る前に外し忘れていたネックレスということを思い出した。

「ったく何なん、朝っぱらから。もー面倒やし、いっそ外さん方がええんとちゃう?」

マキは芦屋の呆れ声を聞きながら、手早く制服に着替えた。

この程度の不調なら大丈夫だ。今日はもう相手の感情に飲まれる訳がない、とマキは心の中で繰り返しながら、無意識に銀色の猫をきつく握りしめていた。



準決勝は5分遅れで始まった。

ジャンプボールは秀徳の手に、そして高尾の手を通して緑間へ。その足はスリーポイントラインを越えている。

開始10秒ほどでブザーが鳴り響く、ここまではマキの予測、そして征十郎の筋書き通りだった。

「どうかね。君が見たがっていた彼らのプレイは」

マキの隣に座る白金は、コートを見ながら、指先をゆるく組み直した。

ベンチからは聞こえないが、緑間が征十郎に何やら話しかけている。目を凝らしてみると、それは宣戦布告のようだった。

約束通り……教えてやる。
−−ハイボクを。

「和泉?」
白金がふいにマキを見た。
いけない、どのくらいぼうっとしていたのだろう。
マキは慌てて答えた。


「…… すごい、の一言につきますね、やっぱり。少し体感しておいて良かったです。今までのとことは空気感が全然違う。それに、」

試合直前、白金と征十郎に、秀徳にボールを渡すことを進言したのはマキだった。
伝書鳩と柱時計がどのように組み合わさるのか、秀徳のプレイスタイルの流れ、というものを肌で感じたいと思ったからだ。

これには2人とも同意見だったらしく、すんなりと受け入れられ、ハーフタイムまでは同点で持ち越すことになった。

なにしろ相手はキセキの世代だ。今までの対戦相手とはレベルの差があり過ぎる。
今回のウィンターカップでは初出場となる征十郎の足慣らしという意味もある。

慎重すぎるぐらいに作戦を詰めなければ、秀徳は征十郎の思惑からふいと外れてしまうだろう。

完璧主義の征十郎にとって、否、洛山高校としてそれは許される訳がなかった。

「それに、どうした?」
「もしかしたら、なんですが、あのコンビには完成形があるかもしれないんです」
「完成形、か」
「すみません。なってみないとどういうものになるか分からないんですけど…… なんか、あの一連のパス回しが確実過ぎて、違和感というか」
「もう一段上があるかもしれない、ということだな。なるほど、その可能性も視野に入れておこう」

白金に話しかける声はマキのものだけだ。マキは唐突に、征十郎が出場していることを実感した。

ぱんぱんっと頬を叩く。
ぼうっとしてる場合じゃない。


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