18 思い込み

あれからもう一昼夜が経とうとしているが、ネックレスは見つかっていない。
マキはコートに向かって、深くため息をついた。

今日、征十郎と交わした言葉といえば、会話とも呼べない代物−−試合の実況ぐらいで、しかも白金の手前仕方なくというような感じだ。

昨夜はなんであそこまで怒ってしまったのか。
今思えば、だが、マキはやめておけばよかったと思った。

「わっ、マキ! 見てみ、今の黄瀬クン超やばかった!」

黄瀬がダンクを決めたらしく、芦屋がまた黄色い声をあげた。
今のは青峰の技を模倣したのだろうか。黄瀬の後ろに浮かぶ透明な器には見覚えのあるコウモリが入っている。

全国の女子高生による歓声なんて耳に入ってないかのごとく、そのすらりとした後ろ姿はただ激しい闘志で満ちている。

その先にあったのは、福田総合のエースこと、あのハイエナの姿だった。

「次はどう出る?」
「スキンヘッドの……技を奪って」

ギャラリー席からでも灰崎の舌打ちが聞こえてくるようだ。
乱暴な足音がする。味方の1人は全て悟ったように動きを止めた。

「詰みだな」

征十郎が誰もともなしに呟いてからしばらくして、福田総合は歓声の中、海常に負けた。

今日は試合直後のざわめきが心地よいのは、観客席にいるからだろうか。
自己中にもほどがある、と思った。
勝敗がどうこう言ってみたものの、結局はマキ自身が関わらなければどうでもいいのだ。
それを証拠に、今は吐き気もしなければコートを見る気もしない。

詰まる所、この数日間悩んでいたことは全てマキの独りよがりだった。
そう、独りよがりだったのだ!

マキは大丈夫なのだから、灰崎も桃井も関係ない。征十郎に助けを求める必要なんてどこにもない。

「マキちゃん、大丈夫?」

ためらうように話しかける声があった。振り向けば、マキに近付いてくる実渕の他にはもう部員の姿はなかった。

「大丈夫です。…… ごめんなさい、ちょっとぼうっとしてました。もう行くので」
「本当に? とてもそうには見えないけれど」

微笑みを浮かべる実渕の向こうから、白い狐がマキを覗き込むようにしている。
一体何が見えているのだろう?

「もしかして、あなた達ってちゃんと喧嘩するの、初めて?」
「…… 言われてみれば。付き合ってからは、確かに」

なるほど喧嘩と形容されるものなのか−−とマキが驚いていると、実渕は更に続けた。

「やっぱりそうよね。全くもー、こんな時期に征ちゃんも何考えてるのかしらね」
「いや、あたしのせいなので、征十郎は」
「拗ねてる征ちゃんも悪いわよ。マキちゃんと喋れなくなったら困るのは自分なのに…… ねえ、このあとも探しにいくの?」

マキは出口に続く階段をのぼりながら、狐の視線の先を探して、背後を一瞥した。

「はい。明るい内に出来ることはやっておきたいなあと思って」

コートには誰もいない。
早く、見つけなければ。

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