15 勝敗

川津学院の4番がブザービーターの成功とともに崩れ落ちた瞬間、自分のせいだ、とマキは唐突に思った。

点差はぴったり50点。コートの真ん中で、最後に3Pを決めた実渕が誰かとハイタッチしている。
自分のせいだ、とマキは心の中で繰り返した。

「本当にお前の言った通りになったよ。よくやったな、マキ」
「うん、信じられない ……」
「ハーフタイムでの決断はやはり正しかったようだな。もし予定通りに二軍を出していたら、もっと手こずっていただろう」

征十郎の声がして、白金の声がした。
もし、という言葉がずしりと響く。もし予定通りに行っていたら、川津学院の一矢が報いたとしたら。

「洛山相手によく頑張った」と、彼らの救いになっていたら。


「もし、あのままでも……」

マキにはそれ以上、彼らの崩れた画を直視することはできなかった。
そこにあったのは、到底ゲームの結果ではなかった。楽しい楽しくないとか、そういう次元のものではない。

マキは勝負に対してあまりにも無知だった。

「あのままでも、何だい?」
「きっと負けることは無かったんだろうなって、思って」
「そんなことはないよ。洛山の名にかけて、僕たちはより効果的に、より確実に勝たなくてはならないんだ。そのために今回はマキの能力が必要だった」

それなのに征十郎は、いつも敗者たちのさまを、そして負の感情を背負ってきたのだ。圧倒的な勝利を決めるたびに。


「あたし、征十郎の役に立てた?」
「ああ、勿論だ。誇っていいよ。今回の一番の功労者は、お前だ」

征十郎は微笑みながら、ぽんぽんとマキの頭を叩いた。
勝者だと、思った。



反省会が終わり、マキがミーティングルームから出ようとした途端、後ろからどん、と衝撃が走った。

こわごわ振り向くと、芦屋が飛びついてきた。

「お疲れやでー、マキー!」
「うわあっ、えりか!?」

いつもなら、うわあって何なんふざけとんのかアンタ、と殴られるはずが、今日はなぜか「そうどすえりかちゃんどすー」としか言わない。

何かあったっけ、と記憶を辿るとすぐに実渕の顔が浮かんだ。


「今日はずっとビデオやっとって知らんかったんけど、マキ大活躍やってな。まったく、ちょっと喋らんうちに何しよったんアンタ」
「…… たしかにちゃんと会話するの久しぶりだね。同室なのに」
「それな! まだウチら一緒に寝てへんのと違う?」

芦屋のハイテンションについていけず、ただ笑っていると、廊下の向こうから見覚えのある画が近付いてくるのが見えた。


マキは思わず固まった。
今まさにすれ違おうとしている集団は、川津学院だった。


「そういえば、昨日は主将と何してたん?クリスマスデート行くから、って電話してきたのもびっくりやったけど、まさかあの赤司君に気ィ遣われるとはな〜。まだなんも言ってへんのに……あ、マキ、ちゃんと報告しときたいことがあるんやけど、帰ったらちょっとええか?」

幸せそうな顔で喋り続ける芦屋は、彼らがつい一昨日トラブルを起こしたばかりの連中だと、気付いていないらしく目もくれない。


3歩、2歩、1歩−−狭い廊下で彼らとすれ違う。
彼らはマキに気付いた瞬間、無言で視線を床下に逃がした。


試合中からずっと感じていた胃痛が、吐き気に変わった瞬間だった。


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