14 テロップ
ゆさゆさと揺すぶられて目が覚めた。寝ぼけ眼で見たカーテンの先はまだ薄暗い。
腰まで落ちてきているシーツをかけ直そうとすると、ウエストの辺りで何かがなぞって、一気に眠気が吹き飛んだ。
「お……はよう」
「おはよう、マキ。昨夜はよく眠れたかい?」
征十郎が浮かべる薄ら笑いは明らかに確信犯のそれで、マキはムッとしながら、枕元の服を手にとった。
朝早くから試合の打ち合わせで監督が来るからと、ベッドでしなかったところまでは良い。
だが、声の響く風呂場で前後の記憶が飛ぶほどする、というのは、頂けない。
マキが腰の痛みに顔をしかめていると、ふわりと体温に包まれた。
「そう怒るなよ。お前があんまり可愛い声を出すから、ついね」
「…… 最近その言い訳多くない?」
「気のせいだよ。ほら、申し訳ないけど急がないと監督と鉢合わせてしまう」
一瞬、少年の画を探しかけ、マキは慌てて着替えを再開した。
マキは、これからは画をなるべく見ないようにしよう、と一昨日の晩に征十郎と話したときから思っていた。
人の心は常に見てて面白いものではないし、勝手に知るのは失礼にあたるのではないか−−
しかし、そんなことを悠長に考えていられたのは、試合が始まるまでだった。
「和泉、お前には何が見える?」
半日してようやく収まった痛みが、コートの硬いベンチのせいでぶり返そうとしている。
「質問の意味が分からないんですけど」
足元に地響きを感じた瞬間、ギャラリーから歓声が上がり、根武谷がガッツポーズを決めた。
川津学院との点差は今のダンクで20点を超える。試合開始から約20分、勝敗だけならきっと白金の目にも見えているはずだ。
「難しく考えなくていい。見たままを言ってくれ」
「はあ……」
隣に控える征十郎は、張り詰めた空気をコートに向けるのみで、マキには一瞥もくれない。
キセキの世代の征十郎だ、とマキは息を飲んだ。
ウィンターカップのという大舞台の初戦の結果が、今後の試合に少なからず影響を及ぼすこと。
『あなたの能力が戦略上、ひいては赤司の役に立つかもしれないんだ』という白金の言葉が蘇る。
征十郎のために。
征十郎のために。
バッシュと床が触れ合う音だけを感じていると、耳の奥から、ぷわああんと何かがほどけたような音がした。
かく、と視界が左にずれる。
焦点が葉山を抜こうとする川津学院の4番に定まった。
次の瞬間、黒いユニフォームの上を文字の羅列がテロップのように流れ出した。
「フェイク、左」
右にバウンドすると見せかけての左。
「パス、8番、ダメだ、前……」
4番は左後方に控える8番にパスを出そうとするも、洛山側のマークにより断念。
葉山はその一瞬の動きの無駄を逃さず、4番からボールをはたき落としたところで、ちょうどハーフタイムのブザーが鳴り響いた。
ふいに動きが止まるコートで、4番の背中には、選手の配置図と無謀ともとれる作戦が流れていた。
「8番と11番が交代。洛山が2軍を出すのを見越して、最初から捨て身で、来ます」
はっとして4番から視線を外すと、胃の辺りがズキリと痛んだ。
ベンチに座る全員の視線が、マキに注がれていた。
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