13 前夜祭

冬至直後の夕方は早足で、まだ4時すぎだというのに足元には濃く、長い影が尾を引いている。
本当ならばこの時間は、マキは芦屋とともに記録係として秀徳対大仁多戦の会場にいるはずで。

「本当に、行かなくて良かったの?」

マキがコンビニの自動ドア脇で足を止めると、征十郎はほんの少しだけ顔をしかめた。

「大丈夫だ。実渕にお前の代わりに行ってもらうよう頼んだし、何より今日が僕らの最後の休日だからね。監督には何とでも言っておく……のは良いんだけど、こんなところで食べるのかい?」
「そうだよ。はい、とりあえず半分」

あんまんを二つに割れば、ふわりと立ち込めた湯気が視界を奪う。
コンビニのあんまんを食べたことがないという言葉通り、征十郎は目を白黒させながら、その片割れを受け取った。

「お口に合いましたか。征十郎坊ちゃん」
「……熱い。あと、甘い」
「おいしい?」

征十郎は頬張るのが精一杯の様子でこくりと頷いた。
猫舌の征十郎を横目にホットココアをすすること数分、ようやく食べ終わったらしく、征十郎は口を開いた。

「マキはいつもこういうことをしているのか?」
「いつもってわけじゃないけど、寒空の下で肉まんとか食べるのすごくおいしいから、時々ね」
「へえ……一人で?」
「ううん、えりかとか。征十郎がくれるものには全然かなわないけど、これはこれでよくない?」
「ああ……そうだね。知らなかった」


北風が甲高い音を立てて通り過ぎ、マキはぶるりと肩を震わせた。

もう一口飲もうと缶を持ち上げた途端、細くてぬくいものがマキの手を引き止めた。
それが征十郎の指だと認識するより早く、唇のはし、から舌がはう感触がして、うっすらあんまんの味がした。

「わっ、わっ、何するのいきなり!」
「ココアがついていたから、つい。驚いた?」
「びっくりしたよっ」

急激に脈拍が早くなるのを感じる。さっきまでかじかんでいた指先が痛いぐらいに熱い。
それでも、缶ごとマキの手をつかむ征十郎の体温の方がずっと高かった。

「そろそろ行こうか」

征十郎はマキの返答を待たずに、握る手を入れ替えて、指先を絡めた。

それはいわゆる恋人つなぎという奴で。珍しいね、と言いかけたところで、歩き始めようとする征十郎の耳が赤く染まっているのを見つけ、マキは思わず顔をほころばせた。

「……なんだよ」
「なんでも〜。ね、次どうしようか。まだ6時まで時間あるよね。みんなでパーティーでもする?」
「そうだね、お前のイヴの時間さえくれれば、僕は構わないよ」

えっ、と声をもらすと、白い水蒸気が浮き上がってみえた。
征十郎の口角がにやりと上がる。

「メリークリスマス、マキ」

メリークリスマス、と言いながらジャンプした拍子に、買ってもらったばかりの、猫をあしらったペンダントが揺れた。



「おっ、バカップル1号のお帰りじゃねぇか」
「案外早かったねー……ん? 2号なんているっけ?」
「みんなでクリスマスパーティーしたいなあと思って。ご飯の時間までやりませんか?」
「やるやるー!! 」
「他の奴らも呼んでくっか」
「ああ。そうしてくれ」
「じゃーさー、ウノしよーよウノー。もち罰ゲームありな」
「まあ、僕が負けるわけないが」
「うわ、うっざ!! マキちゃんなんかないの!! 赤司負かせるやつ!」
「…… ジェンガとか?」
「よし、ジェンガやろジェンガ!」
「おーい、全員連れてきたぞー」


メリークリスマス、ともう一度小さく呟いた。


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