12 閑話休題

イヴに野郎と2人っきりとかマジねーわと呻きながら、火神はマジバーガーの山に覆いかぶさるように伸びをした。

「こちらこそ願い下げです。アレックスさんはどうしたんですか」
「知らねー。日本の服屋見たいっつってカントク連れてったけど……ってお前もそれ見てただろ」
「そうですけど、僕はそういうことを聞いてるんじゃないです」

まったく、とわざとらしいため息をこぼしながら、黒子の視線は再び火神に移った。

「あ? なんだよ、アレックスとデートでもしろってか。んな無茶な」
「まあ、スポーツ観戦も立派なデートコースなので安心して下さい」
「何がだよ」
「アレックスさん、秀徳対大仁多戦見たいって言ってたじゃないですか」

火神はもう何個目かになるマジバーガーを口に運びながら、ふと誰かの視線を感じたような気がして、辺りを見回した。
だが、店内には歓談するカップル達の姿しかいない。

「どうかしましたか。やっぱりリア充が羨ましいですか火神君」
「うっせーな、そのネタいつまで引っ張る気だよ」
「イヴに野郎2人でだんまりっていうのはそれこそ悲壮感でしょう」

そのとき、火神はガラス越しに、ひときわ目立つ赤い頭を見つけた。
どうやらその、道を挟んで向かいの店は雑貨店らしい。
店頭で、どこかで見たような女子高生がネックレスを持ちながら、赤い頭の男と話している。

「あれ、まさか−−」

「そのまさかです。赤司君とその彼女さんですね」

赤司はネックレスの金具をつけているのだろうか、少女のうなじに手をかけながら柔らかく微笑んでいる。

火神には、それが昨日、はさみで切りつけてきた赤司征十郎と同一人物だと到底信じられなかった。

「おまっ、知ってたんなら言えよ」
「僕はてっきり、あれを見てからのさっきの発言だと思ってました」

黒子はどこも見ていないような目つきで、特に驚いた様子もなくバニラシェイクを嚥下した。

「……にしても、あいつでも彼女にクリスマスプレゼントなんてやんだな」
「そうですね。もう長い付き合いですけど、ああいった彼の様子を見るのは初めてです」
「あいつ、やっぱ中坊のときからモテんの?」
「ある意味では黄瀬君以上にそうでしたし、しかも輪を掛けて不誠実でしたかね」
「黄瀬以上?」

思わず外に目をやって、火神は自身に注がれる視線に気付いた。赤司の隣に立つその少女は慌ててそっぽを向いた。

「黄瀬君のファンはうるさいですけど結構ノリが軽い。でも、赤司君のはもっと、なんて言うんですかね、狂信的にハマってしまう方が多かったです。赤司君はそれを分かった上で、存分に食い散らしてました」

また少しして、少女はちらりとこちらの様子を窺った。今度は黒子を、さも興味深そうに、まじまじと見ている。
少女がなぜこちらを見ているのか以前に、ガラス越しに黒子の姿を見ていることが奇妙に思えた。

「食い散らすって……たかが日本の中学生だろ?」
「君こそ、赤司君がただの高校生でないことは身を持って知っているでしょう?」

後ろに立つ赤司もこちらを窺い見ていることに少女は気付いていない。
火神と黒子はほぼ同時に窓から目を逸らした。

「……ああしてると普通に人間だけどな」
「……本当に、そうですね」

赤司は少女と会話を続けながら、明らかな嫉妬と牽制の念を込めて、2人を睨みつけていた。


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