11 answer
初めて見るような慎重さで、征十郎が言葉を選んでいるのが分かった。
まばたきもせずに、絞り出すように。
「ずいぶん前から、お前になんらかの能力があることは気付いていた」
「……え?」
「お前自身は知らないだろうが、お前が不思議な目……一時的な斜視というのか、そういう状態になることがある。そのときのお前は決まって、僕も及ばない範疇まで“見えて”いる。桐皇の敗北を言い当てたときもそうだった」
マキは驚いていた。
能力の一端を見破られたことにではない。
聡い征十郎ならば「いつか分かってくれる」と期待していた自分自身に動揺を隠せなかった。
「だが、確信が持てなかった。僕の思い違いじゃないのか、実際に試合に活用できるかも分からなかった」
「でも、それは今回あたしが来れたことに直接関係あるの?」
「僕にとってはね。もしかしたら、あいつらに会うことで影響を受けて……マキのポテンシャルが何らかの形で表面化する可能性があると踏んでいた」
「それで、実際そうなった」
征十郎はおもむろに手を伸ばすと、あぐらをかいていた膝の上にマキの頭をのせた。
音も衝撃もなく、かすかな痛みだけが右肩に残っている。
半ば無意識に少年を見上げようとしてから、少しためらってもとの位置に視線を落とした。
「怒ってる?」
「……僕が、マキに?」
「今までずっと、征十郎にも言わなかったことだから。言葉にするの苦手だから、どう言えばいいのかわかんないけど、今、怒ってる?」
視ることが全てじゃない。聞いて、感じなければ。
ゆるりと波打つジャージを指先でつかむと、こそばゆい感触がマキの額をなぞった。征十郎は前髪をのけて、手のひらでふわりと視界を奪った。
「こうすると何も分からなくなるのかい?」
「だって、見えないもの」
「そう。じゃあ言葉にするよ。怒ってない」
「ほんとうに?」
「本当だ。誰にだって、言いたくないことの一つや二つはあるだろう」
「……よかった」
僕が迷っていた理由は、お前を利用したくなかったからだ。
いくら有用な能力が眠っていても、お前を作戦の駒にすることには抵抗があった。
つまるところ、僕の自分勝手なんだけどね。
お前が望んだことにかこつけて、強引に連れてきてしまったのは僕だから。
「おや…… 疲れただろう。ゆっくりおやすみ、マキ」
その声を最後に、マキの意識は心地よい体温の中でとけだしていった。
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