10 question

マキは迷っていた。

「どうしよう……」

服をたたむ手をふと止めれば、枕元のデジタル時計は10分経過を示している。
いつまで経っても荷物が散乱するばかりの洋室に、言葉を返す者はない。

征十郎に何を聞きたいのか。
征十郎に何を伝えたいのか。

まぶたを閉じれば、次々と画が浮かぶ。
虎、伝書鳩、毒蛾、しろくま、大蛇。柱時計、水泡、それと鏡。
超個性的、けれどすべて現実に存在する者たちだ。
唯一、猫またを除いては。

「鍵くらいかけたらどうだ。不用心だな」

マキが目を開けると、猫またに扮した少年が立っていた。
いつの間に。そう叫ぶ暇もなく、征十郎はあたかも当然のようにマキのベッドに腰かけた。

「少し、散らかりすぎじゃないか」
「お言葉ですが。そこ、あたしのベッド」
「見れば分かる。芦屋が荷物整理をしない訳ないからな」
「……ひどいな、まだ途中なの。こんなに早く来るとは思ってなかったし」
「どうだか。お前のルーズなのは折り紙つきだろう」

マキが無言で荷物を押し込んでいると、征十郎はごろんと仰向けになった。ご丁寧なことに脱いだスリッパまで揃えて。

「えりかが帰ってきたら絶叫されるよ」
「大丈夫だ。芦屋と実渕は先方に詫びを入れているからしばらくはかかるし、それに……」
「それに?」
「実渕は、僕がお前の部屋に行っていることを知っている」

意味が分からないでいるマキに、征十郎は顔だけ向けた。
その黄と赤の瞳に飲み込まれそうになって、思い出した。『キセキの世代』と畏怖される、本体の征十郎の目だ。

今まで征十郎のどこを見ていたのか、とマキは自問した。
−−柔らかな少年。
あの、マキにしか見えない画が征十郎のすべてだとでも思っていたのだろうか。
ほんとうに、大馬鹿者だ。

「それよりお前はどうなんだ、マキ。僕に話があるんだろう?」
「……うん。ちょっと、聞きたいことがあって」

マキがベッドのふちに腰を下ろすと、征十郎は上体を起こした。
学校のジャージの所々に入る水色のラインが、白いシーツから浮き上がって見える。

強豪、洛山高校の主将。赤司征十郎はたしかにそれなのだ。
マキが知らないでいただけで。

「なんであたしを連れてきたの?」

征十郎は意外そうに聞き返しただけだったが、少年は顔を強張らせた。

マネージャーとして遠征に参加していることが不満な訳じゃない。
むしろ正式なマネージャーでもないのに参加できたことを感謝している。

でも、だからこそ、知りたい。
マキを連れてきたのは、能力の有用性を見越してのことなのか。すべて試合に勝つためなのか。

マキが言い終わってからしばらくして、征十郎は口を開いた。

「僕は……迷っていた」


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