08 押し問答

マキが夕食を終えたのを見計らったように芦屋は席を立った。マキに意味ありげな目配せを落として。
当然、それに気付いた白金の質問は至って事務的だった。

「どうした芦屋」
「マキとちょっとお花摘んできますぅ」
「……そうか。行ってこい」
さすがに反応に困ったようだったが。


食堂から連れ出された先はホテルのロビー、高級そうなソファが並ぶ一画だった。
芦屋はマキの正面に座ると、単刀直入に切り出した。

「なんで監督に呼ばれたん?」

その質問が来るのは分かり切っていたからすらすらと答えられた。桐皇戦での勝敗予測をチームに役立ててほしいとか何とか、と。

ただ、この次に来るだろう「どうやって予測したのか」という問いが問題だった。マキが適当に答えようものなら、白金と違って同室の芦屋は夜通しで根掘り葉掘り質問してくるだろう。それだけは避けたかった。

だが、芦屋はため息をついたばかりの口で、意外な台詞を吐いた。

「なんで勝つって分かった ……って聞きたいとこやけど、やめたやめた」
「えっ……」
「だってあんた、全く言う気ないやろ。見てて分かるわボケ」

マキが「ごめん」と目を伏せると、芦屋はもう一度ため息をついた。

「ひとつだけ。イエスノーでええから、いいか?」
「いいよ」
「あんたがその、試合の勝敗が分かるようになったんって、前からなんか」

「−−ううん。今回が、初めて」

突如として、名前を呼ぶ声にマキの思考は遮断された。
やってきたのは根武谷だった。葉山と実渕も一緒にフロア中の視線を集めている。
慌てて姿勢を正すと、葉山が少し決まり悪そうに言った。

「あ、そんな大したことじゃねーよ。売店にあったから、ダッツ奢ろうと思って」
「ダッツ?」

マキが聞き返すと、
「ほら、さっきの試合でダッツ賭けたろ? お前はいいって言ったけどよ、やっぱそのままっつーのもあれだしな」
と根武谷が付け足した。

「いや、本当にいいんですって。申し訳ないし」
「もう、遠慮しないの。いーのよ奢らせとけば。どうせこいつらの財布なんて牛丼かゲームにしか消えないんだから」
「……その点実渕はいーよな。使用目的が一緒で。服なんていつも買ってるもんな、お前」
「は? 何が言いたいわけ?」

「あの、取り込み中ごめんなさい。……やっぱりお言葉に甘えてもいいですか?」
マキがそろそろと手を上げると、3人ともぴたりと動きを止めた。

「さいしょっからそー言えよー」
「そうよ。そう来なくっちゃ」
実渕はそう言うと、笑顔で芦屋に向き直った。

「せっかくだから、えりかちゃんも奢らせちゃいなさいよ。財布は2つあるんだし」
「マジで? ウチもええんですか?」
「お、おう」
「やた! ゴチになります〜」

実渕だけは怒らしてはいけない、とマキはしみじみと思った。


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