06 辻
終局である。
雄叫びが上がったのは誠凛からだった。体育館の真ん中で天を仰ぐ、そのさまにビリビリと鳥肌が立つ。見えない風が肌に吹き付けて、全身の毛が逆立つようだ。
ここまで勝利を噛みしめている誰かの姿を、今まで目にしたことがあっただろうか?
「おいおいおい、101対100? マジかよ…」
「小遣いねーよ今月!」
「アンタらはまだ、奢るったってたかがダッツ2個じゃない。私なんて服よ服!」
「金額の問題じゃないだろう。僕なんてカラオケだぞ? この僕が」
ここまで敗北感に満ち溢れる洛山陣を見るのも初めてだな、とマキは独りごちた。
数十分前、桐皇の勝利を断固として譲らなかった面々はとうとうマキに賭けを持ちかけてきたのだった。もし誠凛が勝ったら何々を奢るが、その代わり負けたら我々の要求を飲め、というように。
「でも、そのお願いやるって言ったん、赤司君たちやない。男ならごちゃごちゃ言わんといて」
「っせーな、お前だけずりーよ! どっちにもつかねーでさ!!」
「せやけど葉山センパイ、勝負を賭け事に使うこと自体間違ってるんちゃいますか。あの人らは一生懸命やってるんですよ?」
数十分前の芦屋の台詞。
『えーどないしよ〜。誠凛の黒髪の人カッコいいけど、相手桐皇だしなぁ。ウチ決められへんわ』
どの口がそれを言うんだ、と誰もが内心で突っ込んだ。
「ま、まぁ、物が欲しくて予想した訳じゃないから無理しなくてもいいですよ。全然」
「マジで!?」
「さすがマキちゃん、太っ腹!」
「いや。言った以上は責任をとろう。そういうことで妥協されるのは気に食わない」
バックに花を咲かせていた一同の表情は一瞬で凍りついた。赤司の機嫌が悪い。いつの間にやらすこぶる悪い。
芦屋は小声で「なんとかしなさいよ」とマキのわき腹をつついた。
「そんなこと言われても……」
「カラオケぐらい行ってやろうじゃないか。何なら僕が全員分奢ろうか」
おおっ、と今まで会話に加わっていなかった部員たちもどよめく。
そんなことを言われても、プライドに火がついた赤司を止められるはずがない。
「……お前たち、ここに何しに来たのか分かっているのか」
怒りを通り越して呆れたような声が響いた。さすがと言おうか、口々に騒いでいた部員たちは嘘のように静まり返る。
「遠征で騒ぎたくなる気持ちも分からなくはないが、お前たちは一個人ではなく、『洛山高校』として出場しているんだ。そのことを忘れるな」
「はい」返事が重なって、分厚い音の波が広がる。その場は白金によって収まったように思えた。
だが、白金はそのまま連絡事項を言い終えると、最後にこう付け足した。
「−−それと、和泉はここに残れ」
「えっ?」
思わず赤司を見ると、赤司もまた納得のいかなさそうな視線を白金に投げかけていた。
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