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廊下のずっと向こうからバタバタと足音がしている。多分お店からだ。
おばあちゃん、元気だなあ。
いやいや、そんなことをのんびり考えている場合じゃなかった。
「えーっと……ごめんね、おばあちゃん強引で……」
マキと赤司は客間のソファに座りながら、透かし彫りのテーブルを挟んで向かいあっていた。
なんとも絶妙な気まずさだ。
おばあちゃんが赤司のことを彼氏だボーイフレンドだと騒ぎ立てた挙句、半ば無理やり家に連れてきてしまってから数十分。
成り行きでご飯も一緒に食べることになってしまっていた。
「いや、僕の方こそ、食事も出して頂けるなんて申し訳ない限りなんだが……」
豆腐屋という商売のせいでマキの家は人の出入りが激しい。その上、店と家がつながっているどころか隔てるものが引き戸1枚ときている。
マキは慣れたものだが、田舎商売人ノリを知らない赤司は困惑しているようだ。
今更帰せないし、どうしたものか。
「……あ。トランプでもやる?」
少し間があって、赤司はぷっと吹き出した。
ふいに猫またがぼやける。
見ていた風景の縮尺が急に変わったみたいな、そんな感じ。
けれど、マキが目をこすったときには元通りになっていた。
気のせいだったのだろうか?
「むう……」
「トランプ、ね。ははは、君って面白いな。同い年の女の子とはとても思えない」
「ひどいなぁ、我ながら名案だと思ったのに」
初めての環境できっと疲れてるんだ。マキはとりあえずそう思うことにした。
「いや、やりたくない訳じゃない。提案としては悪くないと思うよ。トランプ、出して」
さっきまでの困惑顔はどこへやら、赤司の様子に遠慮のえの字も見受けられない。
でも別にいい。マキにとってはその方が気が楽だ。
ちっちゃい引き出しが無駄に多い、実用性に欠ける箪笥に、ソファに座ったまま手をのばす。「……横着にもほどがあるんじゃないか」と呆れ顏で言われたが気にしない。
何する?とトランプを切りながらマキが聞けば、赤司は何でもいいとのことだった。
どうしようか。せっかく赤司と対戦できるなら、ありきたりなのは避けたい。
マキは数秒頭を巡らせ、ぽんと手を叩いた。
「ね、ポーカーしよっか」
「いいけど、随分……」
「何、おじさんみたいって?」
「そうそう。なんならチップも賭けようか?」
「やだよ破産する」
そこでマキはちょうどトランプを配り終えた。
5枚ともゆっくり表に返す。
マキの手札はスペードの2とクラブの5、ハートの7、10、Kだった。
なんの役も出来ていない上、できそうもない。かなりまずい手札だ。
「少し気になったんだが、なぜポーカーなんだ? この部屋には碁盤もあるようだけど」
「囲碁は、もういいの。新幹線で3局はやったし」
「……僕の対戦スタイルは知り尽くしたってこと?」
「そうゆうわけじゃないよ。またやりたいけど、今ちょっと……ポーカーなら対等に張り合えるんじゃないかって思っちゃった」
赤司は意味ありげに片眉を吊り上げた。
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