4

「じゃあ今日はここで終いや。お疲れさん。ほな、さいならー」

よし、終わったっ。
特別行事特有の高揚感に包まれながら、マキは真っ先に教室を飛び出そうとした。

けれど、どこか引っかかりを感じてブレーキをかける。


教室が、帰る雰囲気ではなかった。

梅田と駄弁る女子。
出かける約束を交わす女子。
男子と連絡先を交換する女子。

聞こえてくるのは当然京都弁で、皆誰かしら知り合いがいて。

アウェー感ってまさにこれなんだろうなあ。

マキは重くなったバッグを肩に担いでそそくさと教室を出た。



洛山高校は最寄り駅から10分もかからない距離にある。由緒正しそうなアーケード街をまっすぐ抜けてすぐのところだ。

駅のマジバを横目で何度も見ながら改札に入ると、同じブレザーをちらほらと発見した。
灰色のブレザーの下からのぞく、濃い灰色のチェックにピンクのラインが入ったスカート。
洛山の制服は可愛い、という噂だが、いまいちピンとこない。


プラットホームでも同じブレザーを見つけた。と思ったら、その頭が赤くてぎょっとする。

赤司征十郎、だったか。少年の名前は。

素知らぬふりして通りすぎようか、声ぐらいは掛けるべきか悩む。

おそらく、赤司ならマキの存在は気付いているだろう。そうなると無視するのはちょっと感じ悪い。

それに、マキと同じ東京出身だ。


「どーも。また会ったね」
マキが隣に立つと、赤司から驚いたような気配が伝わってきた。

「…ああ、どうも。君っていつでも唐突なんだな。朝もかなり驚いた」
「そんなつもりはないけどなあ。でも凄い偶然。学校だけじゃなくて出席番号まで前後だったなんて」
「そうだね。ここまでくると因縁じみたものを感じるよ」

単調なメロディが鳴って、どちらともなく口を閉じた。
数秒後、扇風機なら中ぐらいの風をともなって奈良行の電車が到着した。


車内に足を踏み入れると、今日はどこも入学式なのだろう、真新しい制服であふれていた。
赤司はまっすぐ反対側のドアに向かう。外が見える位置だ。
マキはドアの近くのつり革に手をかけた。


「そういえば、君はどこで降りるんだい?」

ちょっと止まって心の中でその言葉を繰り返す。大丈夫、マキに対する疎ましさは込められていない。

「ここから4つ先」
「へーえ……」
赤司は感慨深そうに顎に手を当てた。

「あれ? もしかして降りる駅も一緒?」
「そのまさかみたいだな」

どうやら奇遇どころの騒ぎではないようだ。



電車から降り、見慣れた改札を猫またと一緒に出る。とてもとても変な感じだ。

「僕の顔に何かついてる?」
「……いえ、別に」
怖いことにマキの思考は赤司に筒抜けらしい。


「誰かと思うたらマキちゃんやないの。あら、もうボーイフレンドできたん?」

おばあちゃんの声が聞こえてきたのは、阪急の自動ドアの前を通り過ぎてすぐのことだった。

prev/next

back



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -