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「ちょっともう、どうしたの?」
「あと少しだけだから」

甘えるような声を出して布団に引きずり込まれたものだから、マキは身動きが取れなくなってしまった。

赤司でも誰かに甘えるんだ。
驚くと同時に、マキはその対象が自分であることがどうしようもなく嬉しかった。

「じゃあ、ちょっとだけ」


それにしても、赤司の顔は綺麗だ、と思う。男の子に言うのもなんだけれど、まるで人形みたいだ。

こぼれそうな睫毛にそっと指をのばすと、目の前の唇が薄く弧を描いた。

「僕を眠りから目覚めさせてくれるのかい? 王子様」
「……起きてるじゃん、十分」
「キスしてくれないと離さないよ」

さっきまでのたどたどしい口調はどこへやら、すっかりいつもの赤司だ。
もうちょっと見たかったなぁ。なんて儚い希望は諦めて承諾すると、手首に込められた力が弱まった。

マキは自由な方の手を軸に起き上がると、ちょっとためらって瞼に口付けを落とした。

「……口には?」
「キスはキスでしょ!」

「仕方ないな。物足りないが、合格点としようか」

ぱちっと赤司の目が開く。
そのとき、マキはファスナーが開くような音を聞いた。


そこにいたのは、着ぐるみを着た小さな男の子だった。猫またの頭部を脇に抱え、サイズが合わない着ぐるみの裾を引きずっている。

男の子は不安そうな、頼りなさげな面持ちで、マキを一心に見つめていた。

これが、猫またの中身。
赤司の本質はなんと弱々しく、幼いことか。

そんな自分とプライドを守るために、赤司自身も気付かないぐらいにすっぽりと「猫また」という着ぐるみを被っていたのだろう。

でも、マキには見える。
赤司のそういう一面を見ることが出来るのだ。

「マキ、どうした?」
赤司は布団から起き上がりながら、不思議そうに首を傾げた。

「ううん。何でもない」
「そう言われると気になるな。僕に言えないことかい?」

「なんかさ、嬉しくって。今のこの瞬間が。それだけだよ」

マキが笑いながらそう言うと、少年は顔を真っ赤にして背けた。相対する赤司は「そうか」なんて素っ気ない返事。
全然素直じゃない。


「そういえば、朝練は? 土曜日も練習あるよね」
「何を言ってるんだ。もうテスト3日前だぞ」
「……あ」

すっかり忘れていた。テスト準備期間中は勉強どころでは無かったのだ、なんて言い訳はきっと通用しないだろう。

「どうしよ、全然してない……」
頭を抱えると、ぷふっと赤司が吹き出した。


赤司は、マキの隣で屈託なく笑っていた。


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