58

目が覚めると、すぐ隣に赤司の寝顔があった。

朝の日差しが裸のマキと赤司を容赦無く照らす。
とっさに跳ね起きると、腰の真ん中に弦を弾いたような直線的な痛みが走った。

そうだった。昨日、赤司とーー

今更になって、すごく恥ずかしい。
赤司の鎖骨から腰にかけての筋肉だとか、匂いとか、体温とか、細い指先だとか。

どうやら直後に寝てしまったらしく、断片的にしか覚えてないけど、それらの生々しさはマキの熱を煽るには十分だった。

ぶんぶんと頭を振る。
とりあえず服、着なきゃ。


マキが下着だけ着終わったところで、ちょうど携帯が鳴りはじめた。
連絡が来たらすぐ取れるようにと枕元に置かせてもらっていたものだ。

急いで画面をタップすると、着信先はお母さんと表示されていた。

【もしもし】
「もしもし? お母さん?」
赤司がもぞっと動いた。

【あら、アンタにしては早いわね……ってそういえば友達ん家にいるんだっけ?】
「そんなことより、おばあちゃんは!?」
【ついさっき意識が戻ったところよ。2週間以内に退院できるって】

「良かったぁ……」

マキは携帯を耳に当てたまま、思わず天井を仰いだ。おばあちゃんが無事だった、そのことを感謝せずにはいられない。
胸につかえていたものがすっと消えたようだった。

【ほんと、病院に泊り込んだ甲斐があるってものよ。あたし達はもう家に帰るけど、マキはどうするの? 迷惑とかかけてないでしょうね?】

お母さんは勘が良いから、気をつけないとボロが出る。
注意深く「全然、かけてないよ」と答えると、
【ならいいけど。申し訳ないけど朝ご飯はそちらで頂いてきて。あたし、もうヘトヘトだから。家で寝てるわ】

疲労困憊のお母さんにはそんな心配は無用だったらしく、通話は唐突に終わった。


「マキ……?」
はぁ、とため息をついていると、マキの座る方へ赤司が寝返りを打った。目は開いていないからおそらく半分夢の中だ。

「ごめん、起こしちゃったね」
「おばあさんは……大丈夫だったのか」
「うん、おかげさまで。意識戻ったって」
「そうか……今、何時だ?」

意外にも朝が苦手なのか、その声は普段からは考えられないほど拙い。

7時すぎと答えると、微かに呻いて、赤司は何を思ったかマキの鎖骨あたりに手を伸ばした。

「わっ!?」
マキは抵抗すら出来ないまま布団の中に戻されてしまった。
変な意味ではなく、急所でもおさえられたのか物理的に身体に力が入らなかったのだ。

どうやら、寝ぼけているけれど赤司は赤司ということらしい。


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