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女心って謎だな。
マキが『友達』の家に泊まる旨を電話で伝え終わると、そんな言葉がポロリとこぼれた。

「え? なんて?」
「何でもない。失言だった」

赤司は濡れた頭をガシガシと乾かしながら浴室から出てきた。
額とうなじにぺったりと髪が張り付いて、まるで別人のような雰囲気を漂わせている。

言うなれば、色っぽい。マキだって風呂上がりなのだが、どうにも勝てる気がしない。

「さて、待望の僕の部屋はいかが?」
「意外と汚いね。将棋の盤出しっぱだし、数学の問題集は散乱してるし」

ベッドのはしに腰掛けて足をばたつかせていると、赤司の右ひざがマキの太ももを割った。無言で。

「た、多趣味デイイデスネー」
「こういうときは謝らないのか」

無表情からの不敵な笑み。
おそらくその後に続くであろう、つい30分前のマキの台詞を必死で遮る。

『ごめん……今日はひとりにしないで……お願い』

顔から火が出るとはこのことを言うのだろうか。
その時は衝動的に言ってしまったけれど、よく考えると、つまりその……そういう意味もある訳で。

だけど後悔はしていない。
正確には、何も考えられなかった、が近いけれど。

「……もう一度、確認していいか」
マキの湿った髪を一房すくい取りながら、赤司の顔に不安が滲む。
珍しく、猫またと赤司の表情が同じになった瞬間だった。

あっ。

息を飲む。
猫またの背中に金具のようなものが見えたのだ。まるで着ぐるみのチャックのような。

なんだろう。その一心で手を伸ばした先にあったのは、赤司の両眼。
そのまま手のひらで視界を覆って、反対の手で赤司の肩につかまる。

「好きだよ。征十郎」

そっと赤司の吐息に触れる。
体重を腹筋で支えきれなくて、肩を掴む手に力を込めると、ぴくりと赤司が身じろいだ。

唇を離した途端、シーツの上に投げ出された。
覆いかぶさる影は間違いなく男のものだったけれど、不思議と怖くはなかった。


「僕も、好きだ」

赤司に、もっと触れてほしいと思った。


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