48

今朝遅れたのは昨日が代休だったから、なんて言おうものならいよいよマキの面談も確定だろうか。
後ろのドアをそっと開ければ、ちょうど朝礼が終わったところだった。抜き足差し足忍び足で気付かれないように教室を後方移動。
結論としては、まあ……無理だ。

「あっ! マキちゃん来たで!」
「お、おはよう……」
クラス中の視線がマキに集中するのは今に始まったことではないが、何故だかそれにニヤついた笑みがプラスされている。

「いよっ! 待ってました!」
「祝、赤司君のカノジョさんのお出ましお出まし
「えっ!?」
付け加えるならば、そんなクラスメイトの声にぎょっとしているのはマキ一人である。

とっさに赤司を見る。窓際に座る彼は、ただ笑って、
「なにをぼんやりしている、マキ?」

真っ赤になったマキの頬を見て、再びクラス中から野次が飛び交った。


「赤司、どういうつもり」
「何のことだい?」
4限の古典が終わり、ようやく衆人監視から逃れられる昼休みがやってきた。赤司は1番高いA定食を食べながら、はて、ととぼけ顔。

「分かってるくせに。何で、付き合ったこと知れ渡ってるの?」
「ああ、それなら僕が言ったが」
「あ、そうなの……って違う!」
あっさりと、実にあっさりと言うものだから納得しかけたじゃないか。

「仕方ないだろ。事情聴取していたおかげで、僕ら2人だけ学園祭の片付けにも打ち上げにも出なかったんだからな。馬鹿正直に、警察沙汰になっていたと話した方が良かったか?」
「それは嫌だけど」
「それに、単に僕が言いたかっただけ、というのもあるな」
「ごほっ!?」
どうしてマキの知人は、マキがうどんを頼んだときに限って肝をつぶさせるのか、甚だ謎である。

ごしごしと口を拭っている最中に、赤司が「いい加減慣れてくれ」と言うものだから、小細工が全く意味をなさないほどにマキの顔は赤く染まってしまった。
「……だって、なんか恥ずかしいし、よく分からないんだもん」

今までずっと先の見えないトンネルを歩いていたのに、いきなり視界がひらけて外の明るさの中に放り出されたみたいな、そんな感じだ。頭では少し理解したけれど、急すぎて感覚がついてきていない。
適応しなければいけないのは、分かっているんだけどなあ。

「まー先のことはおいおい考えていくとしても、だ。とりあえずウチに、一昨日のことちょおっと教えてほしいな」
相席失礼するで、と言ってマキの隣の椅子を引いたのは、芦屋だった。

「えりか」
「……なんなん。捨てられた子犬みたいな顔しよって。ウチはあんたじゃないからあんたのことは分からんわ」
だが、その冷ややかな眼差しと低音は「征ちゃん、私たちもご一緒していいかしら?」一瞬で反転する。
「わっ、実渕せんぱい!」
「相変わらずヒッデーなー。俺らもいるっつーの」
「勿論、お前達も構わないよ。椅子は足りるかい?」
「うん、根武谷!」
「ん。隣から2つ持ってきたぞ」

マキと赤司が座っていた4人用のテーブルが、瞬く間に騒がしくなる。ただ目をぱちくりさせるマキに気付いてか、実渕が優しく笑った。

「全員こんなだけど、あなた達が付き合うことになったって聞いてとてもうれしいのよ。本当に、よかったと思うわ」

「……ありがとう、ございます」
なんというか、どうしようもなく嬉しかった。


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