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それからは嘘のように早く片がついた。
マキの拘束は解かれ、半分気絶していた菅田は根武谷が担いでいったし、不良たちは言わずもがな連行された。

どうやら出るタイミングを逃したらしい、ということが分かったのは、「後で君も話聞かせてもらうで」と警官が去り、沈黙が訪れてからだった。

なにか言わないといけないのはマキだって分かっている。けれど、拒絶の色を見たくなくて、赤司と目を合わせることすら怖かった。

「……和泉、それで外を歩く気か」
「え?」
だが、赤司の発した言葉は180度異なるものだった。思わず顔を上げると、今度は赤司が目を逸らす。

「そんな格好では、さすがに目のやり場に困るんだが」
「あ、う、わわわっ!?」

マキはあられもない姿ーーブラウスのボタンはほとんど無くなり、ブラジャーが露出している状態だった。慌てて背を向けると、ぽふん、とマキのカーディガンが降ってくる。赤司が放ったらしい。

「お前には女としての自覚が極端に足りないんじゃないか。昨日あんなことがあれば、普通はここには来ないだろう」
「そう、だよね。えりかに誘われて……断ろうと思ったんだけど、事情が事情だったから言えなくて」

聞こえてくる赤司の声は、冷たい。とてもじゃないけれど、着替え終わっても後ろを振り向けない。

「ああ、知っているさ。昨日のことを秘密にするって約束させたのは、僕だからな。高い担保の割には裏目に出てしまったようだが?」

キスのことだ。ばくん、と心臓が脈打つ。

「えっと……赤司、昨日のことなんだけど、あんまり気にしないでね。ちょっと魔が差しちゃっただけだから」
「どうして」
赤司こそ、どうしてそんなことを。マキはぎゅっと拳を握る。

「どうしてって……! 赤司に、赤司に嫌われたくないからっ」
「そういうことはせめて、僕の目を見て言ってもらえないか」

気配も無かった。数メートルも後ろにいたはずの赤司が、マキの肩をつかみ、そして振り向かせる。
ビー玉のような赤と黄の瞳がマキの姿を映すほどに、赤司との距離は近かった。

さっきまでの躊躇はどこへやら、マキはもうまばたきもせず、赤司に釘付けになる。
その双眸には拒絶なんて欠片も浮かんでなかった。

「その程度で嫌いになるなら、僕がここまで必死になると思うか……本当に、どうなるかと思ったんだぞ」
「……迷惑かけて、ごめん」
「ああ、そうだ。迷惑だよ。こんなに感情をかき乱されたのは、初めてだ」

まるで喉から絞り出すようにそう言って、赤司はマキの背中に腕を回した。今までになく強く感じる、赤司のにおいと、ぬくもり。息ができなくなってしまいそうだ。

ぼんやりとしたマキの意識に椎木の顔が現れて、弾ける。「……だめだよ」
指先で押し返そうとしたら、更に強く抱きしめられた。

「今朝、椎木にも言われた」
「……え?」
「昨日、僕は真っ先にお前のもとへ向かっていた……私より和泉の方が大事ならもう私たちは駄目だと言って、振られたよ」

マキが見たあのキスシーンは、赤司が最後にしてほしいと頼まれたものだと言う。
椎木の告白を受け入れたのも、赤司と親しいマキをよく思わない女子からの妬みを、表面化させないためだった、なんて、
「……信じられない」

「僕も、自分が信じられない。僕の近くにいたら傷つけてしまうのは分かっているのに、お前が目の届く距離にいないと心配でたまらないんだ。
マキ、僕は、どうすればいい?」

不意に腕の力が弱まる。
ゆっくりと顔を上げると、赤司の後ろで猫またが何事も無かったように浮かんでいた。

「……選択肢、ないんだね」


決まっている。

あなたの隣で、守ってください。



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