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しいん、とした室内で震え続けるマキの携帯。男は口角を上げながら、見せつけるように携帯を耳に当てた。

「もしもし? どなたでしょう?」
【そう言うお前は?】
心臓が止まるかと思った。もれ聞こえてきた声は芦屋ではなく、赤司のものだった。

「なぁんだ、女の子の名前で表示してあったから期待してたのに、野郎からですか」
【その携帯の主ともう一人はどこだ】
「そんなに殺気立たなくたって僕の目の前にいますよ? ちゃあんと、2人とも。にしてもマキちゃん、コブつきなんですか。そういうことは早く言ってくれないとねぇ」

男は不良の一人に目で合図する。じゃんけんに勝った男だ。
マキは声を上げる間もなくさるぐつわをかまされ、グランドピアノに繋がれたまま床に転がされた。背骨に走った衝撃に一瞬呼吸が出来なくなって、むせる。

【……彼女に、何を】
「決まってるでしょう。お楽しみですよ、今からね。何ならずっと通話中にしときましょうか? あ、でも君の彼女の今月の通話料が凄いことになっちゃうのか、あはは」
【その身が惜しければ、今すぐやめろ】

「やなこった」
目の前の男にブラウスを力任せに引きちぎられ、ボタンがぷちぷちと飛んで行った。ちょうどばんざいをするような格好のマキの、無防備な腹を男の無骨な手がまさぐる。
やがてその手は這い上がってきて、

【……や、や、やめてくれっ!】
赤司のものではない絶叫が、折しもマキの内心の叫びと重なる。
今まで下卑た笑みを浮かべていた不良たちの顔に明らかに動揺が走った。

【もう一度言わないと分からないか?】
「……言われなくてもやめましたよ。どういうことですか」
【先日、うちの学校に出向いてくれた連中の片割れにたまたま会ってね。貴様らのことを快く教えてくれたよ。それで彼、杉田だっけ? 僕の横にいるよ。貴様の、友人だろう?】

何なんだよ、と青ざめる不良たち。まさかバスケ部が不良と呼ばれる自身らの仲間をシメているとは思いもしなかったのだろう。マキも同意見だ。

「……2人を解放しましょう」
【賢明な判断だ】
「でも、そちらが来て下さいね? ここの場所は杉田が知っていますので。彼女たちを出歩かせるわけにはいかないの、分かるでしょ?」

だが一転、男は電話口で微笑みながらまた仲間に目配せする。マキにはその意図が分かってしまった。
ーー卑怯な。
予想通り不良たちは各々ナイフやら鉄パイプやらを手にして扉の前にスタンバイしている。

【ああ。もう、来ている】
「おや、素早いですね。鍵はかけてないので、どうぞお入り下さい」
焦りに焦るマキなんてお構いなしに、その中開きの扉は軋んだ音をたてて開いた。

待ってましたと言わんばかりに躍りかかる不良、その数5人。
マキは思わずぎゅっと目をつむった。


だが次の瞬間、耳に飛び込んできたのは、呻き声でもなければ高校生の声ですらなかった。


「そこの不良少年、ちょいと署まで来いや?」
赤司の前に、笑顔でキレる警官が仁王立ちしていた。

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