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「わぁ〜、校舎キレーやなぁ。こんなん見たら明日からガッコ行けんわ」
入場受付でパンフレットを受け取って、芦屋の第一声。
「おととしに建て替えたらしいで。ほら、あそこにあるんが旧校舎」
「へー。よく知っとんな」
「ウチ、ここに友達おるんよ」
「おとこ?」
「そー。わりとイケてんで」
女3人集えば姦しいと言うが、4人では何だろう、ストレートに迷惑でいいのだろうか。マキを除く全員が完全武装しているから、尚更他の来校者からの視線が痛い。
「……ところで、何で瑞樹ちゃんたちもいるの?」
「「「ええ男釣りに」」」
もういっそ潔い。
「だって、ミスコンで1位とるようなコ、しかもウチと全く系統がかぶらんコが他所の文化祭行くって言うてんねんで? これはジョインせなあかんやろ」
「……そういうものですか」
「そういうもんや。ほな、さっさと行くで」
しかし、今はピークのお昼時。5人でゆっくり座れるような飲食店などあるはずもなく、結局、校舎前に立ち並ぶ露店に向かった。
「なんか、伝統、って感じやね」
露店の看板をよく見ると、担当の部の名前が書いてある。毎年使っているのか、その看板はどれもところどころ塗装が剥げていた。
「じゃあバスケ部は毎年たこ焼き作ってるのかな。すごい、さすが関西」
「……せやけど、買うのはやめとこ。一応」
「え、どうして?」
芦屋はもう一段声を低くして続けた。
「決まっとるやろ。このあと20分ぐらいで交流試合や。洛山の生徒ん中で学校抜けてきてるの私らくらいやし、目ぇつけられたらマズい」
「確かに嫌味だけど……でも」
「分かっとらんな。この交流試合はずっと前の代からあるんやけど、これでIHの出場が決まるって言っても過言やない」
それなら、昨日の一件も合点がいく。彼らにとって洛山はたかが交流試合の相手ではなく、因縁の相手なのだ。ホームグラウンドで行う分、面子もかかっている。
「おかげで向こうは毎年死力を尽くして攻めてくる。今年こそは、ってな」
「お待たせー。なーに難しげなお話しとるん?」
「気にせんといて……って、え、ええっ!?」
何やのん、と首を傾げる菅田の手にはたこ焼き。恐る恐る確認すれば、残りの3人の手にも例のブツが乗っている。
「なに? もしかして欲しかったん? たい焼き一口くれたら、一個あげてもええよ」
「ほんとっ?」
「ちゃうやろアホ」
すぱんっ、と思い切りよくツッコミが入った。
芦屋からの一撃は予想以上に重く、重心を戻す前に足元が引っかかった。
ーー転ぶ。
そう思った瞬間、つんのめったマキを誰かの腕が支えた。
「おっと、大丈夫ですか?」
マキの視界を占めるのは、制服の黒。ずいぶんと背の高い人らしい。
そう思いながら顔を上げると、至近距離で端正な顔立ちとかちあった。
猟犬。
マキは思わず飛び退いたのに、男は優しげな微笑みを絶やさない。
「……ありがとう、ございます」
「いえ、お気になさらず。転ばなくて何よりでした」
その男が去っていくのを見ながら、メアドぐらい聞けやボケ、という菅田の叫びを聞き流す。
じっとりと暑いのに、鳥肌が立っていた。
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