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「レディ〜スエンドジェントルメェン。大変長らくお待たせいたしました」
「只今より、今年度のミス、エァ〜ンドミスターコンテストの開票結果を発表いたしまぁ〜す」

ビィィン、とマイクが金切り声を上げる。

演劇部所属の学実2人組によるアナウンスの集客力は十分だったようだ。
続々と人が集まってくる様子が、マキ達出場者の立つ舞台袖からよく見える。

「我こそは、と投票したアナタも!」
「洛山の『顔』をこの目で拝んでやろうじゃないかっていうそこのアナタも!」
「「今すぐ仮設ステージにお越し下さい!!」」


それから5分も経たない間に、仮設ステージ前いっぱいに人が詰めかけた。
足元から視線を上げなくても、人混みの熱気がむんむんと伝わってくる。
眩暈がしそうだ。

「まず、第三位の発表です! エントリーナンバー7、2年4組……」

もともとマキは人混みで体調を崩しやすい方だが、今日は酷い。
どうやらかなり精神的に参っているようだった。

「そしてぇぇ、栄えある第一位に輝いたのは……ジャカジャカジャカ、ジャンッ!
エントリーナンバー16番、1年1組和泉マキさんです!!」

パッ。
スポットライトがマキの目を眩ませた。

「ぶっちぎりトップの白衣の天使はなんとっ、異例の1年生!!どうぞステージ中央にお進み下さい!」

「……えっ?」
何かの間違いではないのか、と周りをきょろきょろしてみたけれど、照明も視線も拍手の分厚い音の波も、明らかにマキに向けられている。

「そうそう、そこのアナタですよア・ナ・タ。とっとと賞状受け取りに来て下さい」

今までずっとどん底だっただけに、マキはそのサプライズに呆気にとられることしか出来なかった。


アナウンス同様ふざけた賞状を受け取り、舞台裏に戻ると、芦屋が待ち構えていた。

「お帰り。マキ、ようやったな」
「うん……いまいち実感湧かないんだけど」
「ったくアンタは……洛山女子生徒んなかで1番やで、いちばん! もっと嬉しそうな顔しいや。その服けっこう金かさむんやから」

「いいよ、あたしのブロマイドでも売りつけて小遣い稼ぎすれば?」
思わずくすっと笑うと、芦屋はやれやれとため息をついた。

「やっと笑うたな。さっきから辛気臭いカオしおって。ま、言われなくてもそのつもりやけど」
「……やっぱり、えりかだね」
褒めたつもりだったのに、どういう意味やとやっぱりどつかれた。


「そうそう、マキ、このあとって空いとる?」
「最後の30分だけシフトあるけど、それまでだったら」
「あ〜、確かに4時からのシフトあったなぁ。どうやろ……上洛学園で1時から交流試合あるんやけど、マキも一緒に行かへん?」

上洛学園。そう聞いて、手首がかすかに痛んだ。
赤司と顔を合わせたくない、と言わずとも、生徒に乱暴されたから行きたくないと言えば断れるのだろうけど。

『このことは誰にも言わないでくれ』


「でも、あたし部外者だし……」
「あ、ちゃうちゃう。今回はマネージャーとして行く訳じゃないんよ。赤司君が、学園祭のときぐらい自由にしてていい、って言ってくれてん」
「で、せっかくだからコートの外から見ようと」
芦屋は珍しく目をきらめかせながら頷いた。

「……じゃあ、上洛学園までどうやって行くの?」


このときマキは、芦屋の熱意にほだされる前に、赤司が女子マネージャーにかけた言葉の意図を汲み取るべきだったのだ。

芦屋と違って、情報は全て揃っていたのだから。

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