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困ったなぁ。
厨房係に手渡されたお盆と、遠くのテーブルに置かれた番号札とを見比べて、マキは思わずため息をついた。

なぜなら、その席に座っていたのは、いかにも地元の不良然とした高校生2人組だった。

「お待たせしました。お萩ときな粉餅、それとミルクティータピオカです」
「おおきに〜」
「お、標準語やん。こっちにはいつから来たん?」

案の定、これ見よがしに絡んでくる。
大きく開いた胸元と短い白衣の裾に向けられる視線も不快だが……これは衣装係の白衣の改造の仕方がおかしい。

だが、仕事は仕事だ。

「……今年からです。では、ごゆっくり」
「なんや、つれへんな。ちょっとくらい話してくれたってええやろ」
「すみませんが、他のお客さんがお待ちなので」
「ほな、シフト何時に終わるん? 俺ら、ここの出しモン案内してほしいんやけどな」

「……失礼します」

このときはまだ、人目のある店内だったからかろうじて逃げることが出来たのだけれどー


30分後、マキがシフトが終わって控室を出ると、不良が待ち構えていた。

「待っとったで。制服姿も可愛いな?」
不良たちはへらりと下卑た笑みを浮かべて、その場から立ち去ろうとしたマキの手を強く掴んだ。
生温かい感触にぞわりと鳥肌が立つ。

「やめて……っ」

とっさに辺りを見回すが、もともと校舎の端だから人通りが少ない上、マキたちに目を合わせようとする人すらいなかった。

「そんな嫌がんといてぇな。まるで俺らが悪者みたいやん」
「せやせや。なかようしたいだけやで?」
嘘だ。小さな犬がよだれを垂らしてこちらを見ている。

「……やめてって言ってるんだけど。離して」
けれど「おー怖い怖い」と笑うだけで、マキの手を引いて歩き出した。

「じゃ、行こか」

瞬時に不良たちの目的地を悟り、頭の中で警鐘が鳴り響く。
非常階段はテープが張ってあり、生徒以外は立ち入れないようになっているのだ。

マキが大声を上げようとした瞬間、おもむろに誰かの気配がした。


「お前たち、上洛学園の生徒か」
赤司、だ。

「なんやアンタ。見ての通り、お楽しみ中や。怪我しとうないんなら、」
「10秒だけ待つ。そいつの手を離せば、見なかったことにしてやる」
「……なんやと? 粋がるんも大概にせぇや」

ギリっ、とマキの手首を掴む力が強くなる。

「……おい、ちょっと待ち。こいつやで」
「ハッ。なら尚更ええやん。まさか、ボンボン相手にビビってんの?」
手首の痛みに顔をしかめていると、男は更にマキの腕をひねり上げた。

「……っ!」
「このべっぴんさんの腕へし折られてまで、たかがバスケの試合に勝とうと思うか?」

だが、赤司は顔色ひとつ変えず、冷え切った声で宣告する。
相手の目を見ながら。

「10秒、経ったな」


「……だ、だから言うたやん。こいつはそんなタマやないって!」
「おいっ!? どこ行くんや!……くそっ」
マキの手を締めあげていた方も、1人では無理と判断したのか一目散に逃げ出した。


急に解放され、身体中からかくん、と力が抜けた。
倒れかけたマキを赤司が抱きとめる。

「大丈夫か。……一度、教室に戻るぞ」


その状態が、傍からみたら抱きしめられているように見える、なんて考える余地はマキには無かった。




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