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今日は学園祭前日ということで午後の授業は免除され、準備時間にあてられる。
今、そのことをマキほど感謝している生徒がいるだろうか。


「和泉は手伝わないのか」
机の上でのびていると、隣で椅子を引く音がした。

「そっくりそのまま返すよその言葉」
「おや人聞きの悪い。せっかく呼びにきたのに」
「あたし?」
「勿論。芦屋がお前に用事があるそうだ」

ならいいや、とまたのび直した途端、マキの頭に尖ったものが振ってくる。

「……バスケ部のファイル?」
「ご名答。さっさと行ってやれ」
「だって胃の調子が最悪……食堂のおばちゃんに毒盛られたかも」
「まさか」

マキの沈痛な叫びはにべもなく一蹴された。しかも、0,3秒ほどの瞬速で。
抗議の意を込め顔を上げてから、これもまた赤司の思惑通りなのかと思うと、何となく後悔した。


「それは単に慣れない面子で昼飯を食べただけのことだろう」
「……」
赤司はしたり顔で薄く笑う。

「失礼。廊下にてずいぶん違和感のある組み合わせを発見したもので」
「……全部お見通しってわけ?」

「はて、それはどういう意味だい?」
赤司は本気で驚いているようにも、わざと表情を作ってみせているようにも見える。
けれど、猫また不可視のマキにはどちらが真意だか分かるはずも無く。もう、ごちゃごちゃだ。


「マキ! 仮病はええ加減にして、はよう来てくれへん?」
飛んできた怒鳴り声。芦屋だ。
「分かった分かった。今行くって」

よたよたと歩いていけば、芦屋を中心としたクラスメイトの輪からどっと笑いが巻き起こる。

「……まだなんもしてないんだけど」
「気にせんといて。和泉と芦屋が夫婦漫才してるみたいってだけ「よし、あとで表出ぇや?」サッセンしたァァ!」
「え? 表だとグラウンドだよ? 普通は体育館裏とかじゃないの」
「その呼び出しじゃただの告白な」

どうしてもマキが三枚目になってしまうことについては、もう何も言うまい。
そう決めても、目の前の男子が満面の笑みを浮かべて掲げている「それ」には、納得してはいけない気がした。

「……ところで、その服は」


「男なら一度は憧れる!」
「永遠の夢にして天使の羽衣!」
「真に機能性(主に脚部と胸部)と通気性(主に脚部と胸部)を追求した!」

「ナース服。ド○キホーテにて定価3150円でお求めになれます」

マキはツッコミすら放棄することを決めた。


芦屋いわく、洛山では恒例の学園祭行事としてミスコンテスト、ミスターコンテストがあるらしい。それだけ聞けば普通だし、わりとありふれている。
コスプレをしなければいけない、というただ一点を除いて。

「そこでアンタに白羽の矢が立ったわけなんよ。あ、私今うまいこと言った」
「確かに……って、あたしは嫌だよそんなの。だいたい、制服の上に実験用の白衣着るだけじゃなかったっけ?」

「しょうがないやろ!? ウチのクラスの企画は、学実の責任者にナース姿のマキのブロマイドを渡すっつーので通ったんやから! ミスコンで1位取れたら賞品だってもらえるし!」

「それのどこが仕方ないわけ……?」


とにもかくにも、学園祭はすぐそこである。


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